call3:間違いちゃうわ
夕食を終えて、自分の部屋でのんびりしていたら、携帯が着信を告げた。知らない番号、というか、ぼんやりと見覚えのある番号だった。
「あー、もしもし、」
愛想のない声を聞いて、やっぱりあってた、と内心少し笑った。
「もしもし、また間違い電話?」
私が少し楽しげに聞くと、間違い電話の彼は、はっ、と馬鹿にしたように笑った。
「アホ、そんな何度も間違うか。」
「じゃあなんでかけたの?」
「なんでやろな、自分で考えェや。」
電話をかけておいて、かけた理由は自分で考えェだなんて、横暴だなとちょっと笑ってしまった。
「何わろてんねん。」
「いやー、横暴だなーと思って。」
私が笑いながら言うと、なんやねん、それ、とまた馬鹿にされた。
「この間電話切ったとき、ほなまた、って言ってたから、電話またかかってくるのかな、ってちょっと思ってたんだけど、本当にかかってきてびっくりしちゃった。」
「待っとったん?」
いや、待ってたわけではないけど、かかってきたら面白いかなって思ってた、と言うと、それが待っとったってことやろアホと言われてしまった。
「抹茶プリン、」
「え?」
なんだろう、唐突に。抹茶プリン?
そういえばこないだ電話かかってきたときに、好きな食べ物聞かれて、抹茶プリンって答えたっけ?
「食べてみたんやけど、まあ、悪ないな。」
「あ、私もなんとなく食べたくなってぜんざい食べたんだけど、やっぱり美味しいね。自分で作ったから、白玉あんまりもちもちしてなかったんだけど、ツルツルした白玉があんこにあって、美味しかったよ。」
「多分白玉粉足りひんかってんや、それ。水入れ過ぎたんちゃう?」
あ、なんか少しだけ声のトーンが明るくなった。本当にぜんざい好きなんだな。
「そうかも、分量計らないで適当にしちゃったし。」
「別に計らんでもええねん。次作るときは、生地がゆるくならんように気ぃつけながら、耳たぶくらいの固さになるまで少しずつ水足してき。」
「うん、そうする。ありがとう。」
なるほど、水を少しずつ足して、いい固さにしたらいいんだー、と納得したところで、あれ、と思った。
私、なんで名前も知らない人とこんなに普通に会話してるんだろう。
「なんかさ、不思議だよね。」
「なんがや。」
「お互い名前も知らないのに、こうやって会話してること。なんか、不思議だなー、って思って。」
なんとなく、せやな、とか軽く言われると思ったけど、次に彼から出てきた言葉は思っていたものと違った。
「光。」
「ん?」
「せやから、名前、光や。自分は?」
「伊織。」
なんとなく、下の名前だけ言われたから、同じように下の名前で答えた。
「ん、伊織やな。これでお互いの名前知ったんやから別に会話するん不思議とちゃうやろ。」
「えっと、まあ、そう、なのかな。」
光君は、せやせや、と言ってから、ほなまた、と言って電話を切った。
また、ほなまたって言われたってことは、また次があるのかな?
せっかく名前教えてもらったのに、一回も呼べなかったから、次があったら、そのときは光君って呼んでみようかな、なんて思って、携帯電話を見ながらちょっと笑った。
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