call1:自分誰や
部屋でお茶を飲みながら宿題していたら、携帯が知らない番号からの着信を告げた。
誰だろう。登録し忘れてる子いたっけ?
「あー、もしもし、」
「え、誰?」
知ってる子かもしれないし、と思って電話をとると、低い無愛想な男の子の声が聞こえた。
「…、自分こそ誰や。」
「いやいや、電話かけてるんだから私のこと知ってるよね?」
「は、自惚れんなや。誰がお前なんて知ってるか、アホ。」
「ならなんで電話番号知ってるの。」
「知り合いから電話番号変わったってメール来たから、なんでメアドは変わってへんねんって聞こうとかけたら自分につながったんや。」
「ああ、なんだ間違い電話か。」
新手のいたずら電話かと思って身構えたけど、ただの間違い電話で安心した。
「まあ、せやな。」
「うん、そっか。」
「…。」
「…。」
え、なんだろうこの沈黙。
沈黙に堪えられなくなって、えっと、じゃあ、ね、と言って電話を切ろうとしたら、あ?なんで切ろうとしてんねん、という凄みのある声に遮られた。
え、いや、間違い電話だよね?もう話してる必要ないよね?なんなんだこの人は。
「かけとんのは俺やろ。勝手に切んなや。」
「あ、ごめん。」
なんで私謝ってるんだろう。
「…。」
「…。」
はたして、沈黙の電話に、何か意味はあるんだろうか。
もう切ってもいいかな、と考えていると、携帯の向こうから声が聞こえた。
「えっと、んなら、好きな食べ物は?」
「…、抹茶プリン、だけど。」
なんなんだろう。
「はっ、なんやねん、抹茶プリンて。和菓子か洋菓子、どっちが好きなんかはっきりせェや。」
「どっちも好きなんだからいいじゃん。君は?」
「白玉ぜんざいや。」
「ぜんざい…。」
ぜんざい、か。そういえば、学校で転びそうになったり、壁にぶつかりそうになったりするたびに助けてくれた男の子も、ぜんざい好きだったな。助けてやったんやからぜんざいおごれやって言われたもん。
最近、なんでかあんまり会わなくなっちゃったけど。
「なんや、ぜんざいに文句あんのか?」
「いやないよ、ないない。ぜんざい美味しいよね。」
「ん。ほな、またな。」
「え?ああ、またね。」
電話を切ってから、携帯を見た。
やっぱり、知らない番号。
なんか無愛想な人だった。というか、いきなり好きな食べ物とか聞いてきたりして、変な間違い電話だったな。
「…あれ?」
もう話すこともないだろうし、まあ、いいか、と思ったところで、最後の会話を思い出して一人で首を傾げた。
またな、って言った?
間違い電話なのに、また、があるんだろうか?
本当に不思議な電話だったな、と改めて思いつつ、私は宿題の続きにとりかかった。
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