片想いとか嫌やねん
謙也が出ていき、保健室に神崎と二人残された。
「腕、痛むか?」
「え?」
俺が尋ねると神崎は、なんのこと?と言うように首を傾げた。
「さっき腕痛いっちゅーとったやないか。」
「あ、もう、大丈夫。」
アカン、また責めるみたいな口調になってもた。こんなやから、嫌いやないけど、こわい、なんて言われんねん。
「すまん、こわがらせたいわけやないねん。」
こわがられないように、できるだけ柔らかい口調にした。表情も、申し訳なさげな表情(いや、もちろん申し訳ないって思っとんのはほんまやで?)。よし、完璧や。
「うん、わかって、る。(ただ私が嫌いなだけ、なんだよね。)
神崎はさっきより顔を蒼白にして、首を縦にぶんぶん振った。
なんでやねん。
白石君ほんまは優しいんかもー、とかなるとこやろ、ここは。
まあそら今までのことがあるから、すぐに、白石君優しい!すてき!なんてならんのはわかっとるけど、ほんでもできる限り優しゅう言ったんやから、少なくともさらにこわがるんはおかしいやろ。
「あ、あの、白石君。」
「なんや。」
「さっき、なんか言うことは?って言った、よね。」
「おん。」
言った言った。神崎が謙也ばっか構っとるんが腹立って、とりあえず呼び出したはええけど、何話していいかわからんくて、神崎に話題振ったんやんな。
「白石君に、聞きたいことあるんだけど、いいかな?」
神崎が、俺に、聞きたいことが、ある、やて?
どないしよ。はじめてやんな、神崎が俺に興味示しとるんなんて。
こわいっちゅーとったけど、歩みよろうとしてくれてんねやろか?
よっしゃ、なんでも答えたろ!
「白石君は、私のどこが、嫌い、なのかな?」
「…、あ?」
「ひぃ!」
「ひぃ、ちゃうわ、アホ。なんやねん嫌いって。誰がいつ嫌いっちゅーたか?」
「だって、白石君、私にだけ、態度違う、し。」
「神崎やって、謙也と俺には態度ちゃうやないか。」
「だって、白石君が態度違うから。」
「神崎が態度変えへんかったら俺も変えへんわ。」
神崎は、だって白石君が先に、と言いかけてから、堂々巡りだね、とため息をついた。
「神崎が俺んことこわいんて、態度ちゃうからなん?」
「…態度違うのが、というか、知らないうちに白石君に嫌われるのが、こわいんだよ。」
へ?
予想外のことを言われて、とっさに言葉を発せなかった。
「私、何をして嫌われてるのかわからないから、白石君と話してたら、また、もっと嫌われるんじゃないかって、こわかったんだよ。」
え、俺に嫌われるんがこわいて、もっと嫌われたらって思って話しかけられなかったって。
俺に嫌われたくないってことやんな?なんやそれ。そんなん、ちょっと嬉しいやんか。
にやけそうになるのを抑え、優しく柔らかく心掛けて、口を開いた。
「神崎は俺が嫌ってないってわかったら、普通に話してくれるん?」
小さくおそるおそる、こくり、と頷く神崎がなんや可愛かった。俺を嫌ってこんな態度しとるんやないってわかったら、腹も立たんな。むしろ可愛いわ。
「俺な、神崎んこと嫌ってへんで。…好きやねん。神崎が謙也ばっか構わんのやったら、意地悪もせえへんし、優しゅうできる。俺が優しかったら神崎も俺が神崎のこと嫌ってへんってわかってくれるやんな?」
「へ?」
「神崎は、俺に嫌われてない状況だけで満足なんやろうけど、俺はそれだけや足りひん。片想いって嫌やねん。」
びっくりする神崎を見てちょっと笑ってから、せやから、俺のこと好きになってや、と続けた。
「そ、んないきなり言われても、」
だって今まで嫌われてると思ってたから、好きとかわかんない、とワタワタする神崎の手をとった。
ちょっとビクッとはしたけど、前みたいにこわがっとるっちゅーより、びっくりして戸惑っとるって感じやった。よし、ちょっとは近づいていけとる。
「いきなり好きになってなんて言わん。俺はもう神崎に意地悪せえへんから、神崎は少しずつでええから俺のこと好きになって。」
「少しずつ?」
おん、と言うと、神崎はちょっと考えてから、少し笑った。
「だったら、大丈夫。だって私、さっきより今の方が白石君のこと好きになってる。」
ほな両想いやな、と言うと、え、いやそれは違うんじゃないかな、と焦る神崎が可愛くて、こんなことなら意地はらんと早ォ優しゅうしたらよかったわ、なんて思った。
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