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嫌いじゃないけど


死刑宣告、もとい、お昼ご飯のお誘いを受けてからずっと、何を言われるんだ!と焦っていたら、気がつくとお昼休みになっていた。

うそ!心の準備とか、対策とかがまだできてないのに!

「神崎、行くで。」

「い、いや、白石君、対策をちゃんと練ってから!」

白石君は私の必死のうったえもものともせず、は、対策ってなんやねん、と鼻で笑いながら私の手を掴んで歩きだした。





「で、なんか言うことは。」

裏庭についた、と思ったら、私を自分の隣に座らせた白石君は、とうとつな質問をした。

「え、いや、言いたいことあるのは白石君なんじゃ、…なんでもないです!」

言いかけたけど、白石君の顔を見て、あわててやめた。なんでもうすでに怒りMAXな笑みなんですか!

「ほお、俺に言いたいことなんて何一つない、と。」

「い、いや、そういうことでは、」

「ほな、なんか言うてみィ。」

なんか、って一番困るんだよ!

「えっと、謙、」

「却下。」

私と白石君の共通の話題といえば謙也君のことくらいしかないから、とりあえず謙也君の話でもしようかと口を開いたら、名前さえ聞いてもらえずに却下された。

難しい、難しいよ!

「なんやねんお前はいつもいつも謙也謙也謙也。そんな謙也が好きか。」

好きか、と聞いているのに、答えることを一切ゆるしていなさそうな白石君に戸惑っていると、白石君は、私の腕を掴んでいた力をさらに強めた。

「俺んこと嫌いやないって言ったやないか。なあ、嘘なんか、あれ。」

腕ギリギリいってるよ!痛い、痛い!

「嘘、じゃな、」

腕の痛みから出しにくい声をなんとかしぼりだしたのに、最後まで言う前に白石の声にさえぎられた。

「じゃあなんで俺には全然話しかけへんねん。俺が話しかけても、最低限の会話しかしようとせえへんし、なんか怯えとるみたいな感じやし。神崎は嫌いやない人にそういう態度とるんやな。」

「き、嫌いじゃないけど、白石君、こわいもん。腕、い、たい。」

どんどん強まる力に腕がたえられなくなって、若干涙目になりながら言うと、白石君は私を掴んでいた腕の力を急にゆるめて、黙りこんだ。あ、腕自体は離さないんだ。

じゃなくて!どうしよう。なんか黙りこんでるし、なにかまた私はさらに怒らせてしまうことを言ったんだろうか。

「し、らいし君?」

「こわいん?」

静かな声音で、俯いてて表情も見えないからまったく感情がよめない。これなら、俺めっちゃ怒ってんでー、といういつもの笑みを見せてくれたほうがまだマシだ。いや、あれもこわいけど、それでも。

「なあ、こわいん?」

「う、ん。」

怒られたらどうしよう、と思いながら、恐る恐る頷くと、白石君は静かな口調のまま、なんで?と言ってきた。

いや、なんで?って、こっちがなんで?だよ!

「えっと、白石君は、こわい、から。」

「せやから、なんでこわいかの理由聞いてんねんけど。俺こわないやん。」

あ、ちょっと不機嫌そうになった。

「いや、こわいよ。」

「こわない。」

「こわい。」

このままではらちがあかないと思って、私は立ち上がろうとした。白石君はこわくないって言うけど、私はこわいんだ。だからもう教室に戻ろう。そして、謙也君に癒してもらおう。

「どこ行くん?」

「教室。…白石君、手離して。」

「謙也んとこ行くん?」

うわ、また腕掴む力強くなったよ。痛い。

私が黙っていると、白石君は不機嫌そうに、なんでや、と呟いた。

「なんで俺より謙也がええねん。」

「だって、」

「あ?」

ひぃ!なんか柄悪いよ白石君!

「け、謙也君、優しいし、白石君と違って!」

腕を掴むの力が弱まったと同時に、私は走った。





「で、逃げてきたんか。」

「うん。」

教室に辿り着いた私の顔があまりに酷かったのか、謙也君は私を見るなり保健室行くで、と連れ出した。

会議があるので体調悪い人は用紙にクラス氏名記入してからベッドを使って下さい、という貼紙が扉に貼ってあるだけで先生はいなかったから、調度いいや、ということで謙也君にさっきのことを聞いてもらった。

「なんや、いきなり青い顔して教室入ってくるから体調悪いんかと思ったやないか。」

「ごめんね。」

まあ、体調悪いんやなくてよかったわ、と笑う謙也君に、やっぱり癒された。

「で、なんで白石こわいん?」

「え?」

白石君だからこわいんだよ。白石君はこわいからこわいんだ。

あれ?なんで私白石君こわいんだっけ?

「他の子ォには優しいんに、神崎にだけ態度ちゃうから?」

「そう、だね、態度違うのは、や、かな。」

私が頭を悩ませながら答えると、謙也君は首をかしげた。

「ん?やなだけなんか?それがこわいんとちゃうん?」

「こわい、理由。」

「ん。」

今までなんとなくわざと考えないようにしていた気がするその理由が、謙也君に落ち着いて尋ねられ、なんとなく、わかった気がした。

「白石君が、他の子には優しいのに、私には冷たいから。私は何か白石君にした覚えはないから、だからね、私、知らないうちに白石君に嫌われることをしてたのかもって。」

「白石が冷たいからこわいんとちゃうん?」

それもちょっとあるけど、と言ってから、私は首を小さく横に振った。

「白石君が私の何を嫌いなのかわかんないから、関わってたら、知らないうちに今よりもっと嫌われるのがこわかった、のかも。」

「謙也ー!神崎を保健室に連れ込んだってどういうことやー!」

「ひい!」

「おう、白石〜。」

理由をなんとか最後まで言いきったところで、白石君がいきなり走って入ってきた。謙也君!そんな和やかに挨拶するような雰囲気じゃないよ!和むけど!癒されるけど!

というか、こんなに焦ってる白石君はじめて見た、かも。

「連れ込んだとか人聞き悪いこと言いなやー。神崎、顔色悪かったから連れて来ただけやで。」

「なっ、大丈夫なんか?病気か?」

「や、大丈夫、です。」

白石君はホッとした表情を一瞬だけ見せると、すぐにいつもの表情に戻り、なんやねん、人騒がせなやつやな、と言った。

「ほな、俺教室帰るから、後頼むでー。」

「え、謙也君!」

行かないでくれ、と腕を掴もうとするも、サラッとすり抜けられてしまった。さすがスピードスターだよ。褒めてないからね、謙也君のばか!

謙也君は私の頭を一回ぽんっと叩いて、大丈夫大丈夫、と言ってから、私と白石君だけを残して保健室から出て行った。

「神崎、ちょっと、話そか。」

「はい。」

白石君がこわい理由が、知らないうちにさらに嫌われるかもしれない、ということだとわかったのだから、なんとか白石君に嫌われないように話そう、と決意しながら、白石君の顔を見た。

す、すごく真剣な顔してるよ、白石君。

どうしよう。嫌われないように話すとか、どうしたらいいんだ!

もうすでにくじけそうです。


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