やっぱり違う
授業と授業の間の休み時間、次の授業の準備をしていたら、先生が白石君を呼ぶ声が聞こえた。どうやら何か用事を頼んだみたいだ。白石君は眩しいくらいの爽やか笑顔で快諾していた。
次の休み時間、白石君は教室の中でこけかけた女の子を華麗に受け止めて助けていた。ちなみに、自分に怪我なくてよかったわ、という言葉と爽やか笑顔のオプションつき。
次の昼休み、前髪切り過ぎたと落ち込んでる女の子に、可愛いピンをつけてあげていた(妹がポケットに入れていたものらしい)、まあ、こんなんつけんでもかわええけどな、と笑った白石君はさながらどこかの王子様。
さすが四天宝寺の聖書。
「なのに、なんで私にだけ冷たいのかな、謙也君!ねえ謙也君!」
「いや、そんなん俺に言われてもな。」
別にあんな風に優しくして欲しいわけではないけど(して欲しくないわけでもないけど)、さすがにここまで態度が違い過ぎると、なんかやだ。
そう謙也君にうったえると、謙也君は腕を組んで考えこんだ。
「んー、白石、あんま人の好き嫌い激しく出すような奴とちゃうんやけどなー。」
「そ、それは、私が度を超して不愉快な存在だということですか!」
私が詰め寄ると、謙也君は笑いながら、そういうことかもなー、と言った。
笑い事じゃないよ、謙也君!ちくしょー、こんなときでも謙也君の笑顔は癒される、なんて思っていたら、謙也君が私の頭をぐしゃぐしゃーとなでた。
「俺は神崎んこと好きやで!おもろいし!」
「ありがとう、謙也君!私も好き!たまに腹立つけど!」
たまに腹立つってなんやねん、と笑う謙也君に、あれとかこれとかそれとかだよ、と言うと、あー、なるほどなー、…って、んな説明でわかるかー!とベタなノリツッコミをもらった。
「ほんま仲ええなぁ、自分ら。」
「おう、白石ー!仲ええやろ!」
いきなり後ろから声をかけられて少し焦って固まる私には全く気づかずに、謙也君は私の頭をぐしゃぐしゃとなでながら、仲ええやろー、と白石君に言った。
なんか体感温度下がったよ。こわいよ、絶対白石君怒ってるよ。なんで謙也君は全く気づかずに笑顔でいられるんだ。さっき言ってた、たまに腹立つとこってこういうとこだよ、謙也君!
「自分らいつの間に付き合っとったん?」
「へ?付き合ってへんで?」
友達やもんなー、と笑う謙也君に向かって、首をぶんぶん縦に振って頷いた。
というかね、さっきから会話してるのは謙也君と白石君なのに、白石君一切謙也君見てないよ。視線痛いくらい感じてこわい。笑顔なのにこわい。なんだ白石君の視線には質量があるのか。
「へえ、神崎は付き合ってもない男子に、好きとか軽々しく言えんねんな。」
白石君はそんな私を見て、さらに笑みを濃くさせてそう言った。
「い、いや、軽々しく、なんて、」
「ほな、謙也のことめっちゃめちゃ真剣に好きなん?付き合いたいん?」
「え、えっと、」
「アカンで、謙也、自分のことただの友達としか思てへんからな。というか頭またボサボサやな。なんやねん、それ。鳥が巣と間違えて卵うみそうやわ。」
全く口をはさむすきがないよ!口をはさめたとしても、なんて言えばいいのかわからないけど。
ひとまず、髪がボサボサなのは謙也君がぐしゃぐしゃとなでまわしたからだと言い訳したい。別に朝からこうだったわけじゃないんだよ!
「白石、そんくらいにしたりー。神崎いっぱいいっぱいで顔真っ青やでー。」
謙也君の助け舟に白石君は、はっとしたような顔になって、視線をやっと私からそらした。
「あ、ありがとう謙也君。」
「おん!神崎も白石も大事な友達やからな!」
謙也君の言葉は嬉しかったけど、二人が仲よォなってくれたら嬉しいなー、と無邪気に笑いながら続けた謙也君に、苦笑いしか出て来なかった。
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