mission7:思い出す
「小春、最近よぉアイツとつるむよな。」
教室で友達と笑いながら話しとるそいつを指し示しながら言うと、小春は、ん、とそっちを見た。
「あー、伊織ちゃん?せやね。席近いし仲よぉなってん。」
「ふーん。」
席近いから仲よぉなったんか。
ほな、俺も席近かったら仲よぉなるんかな。
…て、アホか、何考えてんねん。
そんなアホなことを考えとったら、神崎が近づいてきた。
「小春ちゃん、貸してくれた本、すっごく面白かったよ!読み終わったから返すね。ありがとう。」
「ふふ、気に入ってもらえてよかったわー。伊織ちゃんのおすすめもまた今度貸してな。」
「うん!」
神崎、めっちゃ笑っとる。
そういや、俺、神崎に笑いかけられたことあらへんな。
てか、話したこともほとんどないわ。
「今な、ちょうど伊織ちゃんのこと話しててんで。」
「え、何を?」
「ユウ君がね、伊織ちゃんとアタシ、最近仲ええなぁって。」
別にそんなん言わんくてもええんに、と思っていたら、神崎は小春から俺に視線を移した。
「そうだったんだー。うん、小春ちゃんと仲いいよ。」
神崎は俺を見たまま、嬉しそうに笑ってそう言った。
「な、仲ええとか自惚れんなや!小春と仲ええんは俺や、アホ!」
「ユウ君、何言うてんの!」
小春にべしっと頭をはたかれたけど、それよりも自分の発言に自分で驚いた。
ほんま何言うてんねん、俺。
「はは、仲いいんだね、二人とも。」
「俺と小春が仲ええんは当たり前や、アホ!」
「ユウ君!」
アカン、またや。なんでかわからんけど、神崎に笑顔向けられたら、心臓おかしなって、なんや変なこと言ってまう。病気か!
酷いこと言って嫌われたやろか、と思って神崎の表情をうかがうと、神崎はまだにこにこ笑っていたから、嫌われてはないんかな、となんでかわからんけど、少し安心した。
「ふふ、そう言えばユウジ君、出会った初めの頃は、よくしかめっつらだったよね。」
今でもたまにしてるけど、と笑う伊織の笑顔は、出会ったころよりももっと、優しくなったと思う。
「あ?そうやったか?」
「うんうん、そうだったよ。」
伊織の笑顔見たら心臓バクバクなって、うまく話されへんかったなんて、ダサくて言われへんわ。
「だからね、たまにユウジ君の笑顔見たら、なんだか心臓がドキドキしちゃってたんだよ。」
伊織はそう言いながら、嬉しそうに笑った。
こういうふうに、素直に気持ちを伝えられる伊織は、ほんますごいと思う。
「…俺も、伊織の笑顔見たら、今でも心臓バクバクやわ。」
たまには伊織を見習って素直になろうと、目線をそらしながらそう言うと、伊織はまた嬉しそうに笑ってくれた。
「ふふ、じゃあ、一緒だね。」
こんなぶっきらぼうな俺を、伊織はいつも優しい笑顔で包んでくれる。
ほんま、幸せもんやわ、俺。
なんだか改めてそう思って、小さく笑った。