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mission5:狙う


今日は調理実習やった。

こっちの明るいピンクの包みが小春に渡すやつで、こっちの薄桃色の包みが伊織に渡すやつ、とカップケーキが入った手元の包みを見た。よし、完璧や。

同じ班の女子からこのカップケーキを死守しながら、(やー、めっちゃ可愛いやん!)(ほんまや、一氏君ラッピングうま!ちょうだい!)(アホ、誰がお前らにやるか!)なんとか教室に辿りついた。

小春と伊織は先に帰っとったから、もう教室におるよなー、と思って教室を覗くと、おらんはずの人間が一人おった。

「白石、なんで、おんねん。」

「おう、ユウジ!あいっ変わらず器用やなー、そのラッピング。」

俺んはないん?と聞いてくる白石に、ないわアホ、お前なら女子にぎょーさんもらえるやろ、と言うと、白石は、せやなー、とあっさりひきさがった。

なんや、めっちゃあっさりしとるな。

「神崎さーん。なあ、神崎さん。ちょォこっち来てやー。」

「なっ!白石、何呼んでんねん!」

「はーい?あ、ユウジ君!」

白石に呼ばれて不思議そうにこっちを見た伊織は、白石の隣におる俺に気づいてめっちゃ笑顔で寄ってきた。かわええ。白石、勘違いすんなよ。この笑顔は俺に向けられてんねんからな。

「神崎さん、さっき調理実習やったんやろ?俺お腹すいてん。なんかめぐんでくれへん?」

な、何言うてんねん白石!てかお前、伊織に会ったん、こないだ学校であった試合ん時がはじめてやんな?せやのになんでこんなに馴れ馴れしいねん、こいつは!

「はは、もうすぐお昼なのに待てないの?」

「朝練で朝食のエネルギー全部使ォてもーてん。」

アカン、伊織のカップケーキは俺が狙っとるんや!という俺の心中なんて知らない伊織は、のほほんとした笑顔で、それは大変だねー、と言って白石にカップケーキの包みを渡した。

「おおきに。わあ、めっちゃうまいわー。」

そらうまいやろな!俺はまだ食べたことないから知らんけど、伊織の手作りなんやからうまいに決まっとるわ。

「伊織、ん。」

ちょっとむくれながら伊織にさっき可愛くラッピングしたカップケーキを渡した。

「わあ、ありがとう!ユウジ君すごい!やっぱり器用だね。ラッピング可愛くてあけるのもったいないや。」

可愛い、可愛い!と喜ぶ伊織が可愛くて、さっきまでむくれとったのも忘れてちょっと機嫌がよくなってしまった。

「あのね、私もユウジ君用にラッピングしてみたの。食べてくれる?」

ユウジ君にはやっぱりかなわないけど、がんばったよ?と笑う伊織の手元にはさっき白石に渡したものとは比べものにならないくらい綺麗にラッピングされたカップケーキやった。

「お、おおきに。」

「えへへ、どういたしまして。」

俺が照れて少しぶっきらぼうに受け取ると、伊織はめっちゃ嬉しそうに笑った。

さっきまで、白石への嫉妬とかでなんや腹んなぐちゃぐちゃしとったんに、それが全部ほわほわ消えていった。小さいことで嫉妬したりむくれたりするけど、いつもいつも伊織の笑顔一つでそんなもん全部ふっとんでまうんやから、伊織にはかなわんな、なんて思ってちょっと笑った。


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