mission3:応援される
明日の土曜日は、近隣の中学校と練習試合や。
まあ、負ける要素があらへんな。明日も笑かしたるわ。
「ユウジ君、明日試合あるんだよね。」
「あ?なんで知ってるんや。」
小春ちゃんに聞いたの、と言いながら笑う伊織の顔はほんまに柔らかくて、付き合う前より笑顔向けられる機会増えたよな、と嬉しくなった。
「応援行ってもいい?」
「あ?」
応援!?俺の応援やんな?どないしよ、嬉しいやんかそんなん!
いや、嬉しいけどどないしよ。
白石とか、あいつ絶頂とか言いよるけど、かっこええもんな、テニスしとるときなんか得に。
財前とか謙也とかもかっこええ方やと思うし、伊織、白石君のほうがかっこええ、とか思ってしもたらどないしよ。
テニスコートにはやっぱ近づかせんほうがええな。
「あ、ごめん。だめ、だったかな?」
「いや、大丈夫やで。応援来てや。」
アカン、テニスコートには近づかせんとこって思っとったんに即答してもた。
せやけどしゃーないやろ、眉下げて不安げな伊織がかわいかってんもん。
こんな伊織にアカンなんて言えるわけあらへんわ。
「ありがとう!頑張って応援するね。」
嬉しそうに笑う伊織を見て、やっぱり断らんでよかった、って思った。
よかった、って思っとったんやで、昨日まではな。
せやけど今現在、絶賛後悔中や。
「ユウ君、伊織ちゃん気になるんはわかるけど、もうすぐ試合やからな。集中集中!」
「わかっとるんやけどな、小春〜。なんや白石が伊織に近づいて行ってんねん。」
次の試合の準備しとるからここからは何話しとるか聞こえへんし。
「せっかくあんま目立たんポジションまで連れてったんに近づかれたら台なしや。ああ、やっぱ連れて来んかったらよかったかもしらん。いや応援は嬉しいねんけどな、って、あ!なんやねん、財前まで!銀、とめてくれ銀!お前だけが頼りや!」
「無理言わんの、銀さん今試合中やろ。」
「せやけど、気になるやんか!白石とか財前って、まあ、かっこええ部類やん?伊織ぐらついてしもたらどないしよ。」
小春は呆れたように小さく笑って、ペシッと頭を軽くはたいた。
「アホやな、ユウ君。伊織ちゃんはユウ君を応援に来たんやで。他の子になびいたりするわけないやろ。」
「こ、小春〜!」
「せやから、次の試合、きばって行くで、ユウ君!笑かしたもん勝ちや!」
「小春!やっぱ小春は天使や〜!」
「もうユウ君たら〜。」
「あ、ユウジ君小春ちゃんに抱き着いてる。仲いいな〜。」
「いや、自分ユウジの彼女やんな?気になったりせえへんの?」
部長だとさっき自己紹介してくれた白石君に不思議そうに聞かれて、私はちょっと笑った。
「たまに、小春ちゃんばっかり直球の愛情表現をもらっててうらやましいなー、と思うこともあるけど、」
でも、照れながら手を繋いでくれるとことか、たまにすごく優しい目で私を見てくれてるのに、目が合うとすぐにそっぽを向いちゃうとことか、そういうところも大好きなんだ。
そんなことを会ったばかりの人に言うのはちょっと恥ずかしくて、私は、大丈夫なんだよ、とだけ言って笑った。
「まあ、結構愛情激しそうっスもんね、ユウジ先輩。二人の時は結構ベタベタしとるんすか?」
「え、してないよ〜。ユウジ君、照れ屋さんだから、あ、でも照れながら手繋いだりしてくれるよ。」
このストラップもね、こないだおそろいで買ってくれたんだ、と嬉しくてゆるむ表情を隠しもせずに財前君に見せると、ああ、結局ストラップになったんすね、よかった、と言われた。
「(ほんまピアスやなくてよかったわ。この人確かに穴あけたら泣きそうや。)」
結局ってなんだろう、と思いながらも、綺麗でしょう、とちょっと自慢していると、白石君が、少し驚いたように口を開いた。
「あんまベタベタせんとか、え、ほんま?でも、好きやー、かわええなー、とかはよく言うやんな?」
「ううん、あんまり。あ、でもたまにね、好きとか可愛いとか言ってくれるよ。本当にたまにだけどね。」
すごく稀なんだよ。だから言われたらすっごく嬉しいんだ、と笑うと、白石君と財前君は二人とも、なにか言いたげな顔をして黙りこんだ。
「(いや、ユウジ、俺らの前では結構ナチュラルにノロケとるよな。)」
「(あんなにベタ惚れのくせに本人の前では出せへんとかどんだけヘタレやねん。ヘタレは一人で十分っスわ。)」
白石君はちょっとの間そのまま黙ってたけど、まあ、ユウジとこれからも仲よくな、と言って笑ってくれた。
なんかユウジ君のお友達に、ユウジ君の彼女って認められたみたいで嬉しくなった。
「へへ、ありがとう、白石君。」
「うわあ、小春ー!伊織が嬉しそうに笑っとる!何話してんねん、小春!小春なら何話しとるかわかるやんな?」
「いやいや、こんな距離で聞こえとったらどんだけ耳いいねんアタシ。」
「ほな口唇術や口唇術!小春ならできる」
「無理言わんといて。」
prev next