mission2:おそろい
「はあ、どないしよ。」
「なんやユウジ、悩みか?」
部活終わりに着替えているとき、思わずため息をついとったみたいで、謙也が話しかけてきた。
「あー、じつはな、こないだ、伊織が友達と話しとるの聞いてもォたんやけどな。」
「あ、そのアクセ新しいよね?買ったの?」
「んっふふー!よくぞ聞いてくれました!これね、彼氏とおそろいなの。」
「おそろいかー。いいなー。」
「伊織も彼氏おるやん。なんかおそろいとか持ってへんの?」
「んー、私は欲しいけど、ユウジ君あんまりそういうの好きじゃないかな、って。」
「あー、伊織の彼氏なんか照れ屋っぽいもんな。」
「へへ、でもそういうとこも好きなんだー。」
「って、話しとったんや。」
「ちょぉ待てやユウジ!ただのノロケやないか!」
「あ?別にノロケてへんで。俺は純粋に悩んでんねん。」
「(うわ、こいつ無自覚でノロケてきよる。おそろし!)」
なんや腹立つ目で見てくる謙也を放っておくと、白石が話に入ってきた。
「で、ユウジは何に悩んどるん?めっちゃ幸せそうやん。」
「あんな、おそろいて、何買えばええんやろか。」
俺がめっちゃ難問や!という表情で言うと、謙也と白石が、は?、とハモった。
「は、てなんやねん。人がめっちゃ悩んどるっちゅーのに。」
「いや、別になんでもええんとちゃう?」
「白石の言う通りやで。指輪とかいろいろあるやんけ。」
「指輪なんていきなり渡したら、ひかれへんやろか。記念日でも誕生日でもないのに、って思われたらどないしよ。」
「いや、それなら無難にネックレスとか。」
「ネックレスなんて首輪やんか。そりゃ首輪つけて俺のもんやって示したい気持ちはあるけど、そんなん渡したらひかれてまうわ。そんな束縛せんといて、とか言われたらどないしよ。」
いや、ネックレスと首輪はちゃうやろ、お前偏っとるで、なんか思考偏っとるで、とひきつりながら言う謙也をさえぎるように、財前が、ほなピアスとかどうですか?と言ってきた。
「お前ピアスなんて、伊織穴あいてないんやからアカンやろ。ピアッサーとかで俺があけたってもええけど、伊織痛くて泣くかもしらんわ。泣いた伊織もかわええやろな。伊織のことやから、穴あける前に氷で耳冷やす段階ですでに涙目かもな。痛くない?とか聞きながら泣きそうな上目遣いで見られたらもうかわいすぎや。いや、でも泣き顔より笑顔がみたいねん。せやからピアスはなしや、なし。」
謙也と白石と財前は、なんやひいたような呆れたような目で見てきた。なんやねん、別にそんなおかしいこと言うてへんやろ。
「せやったらユウ君、伊織ちゃんと一緒に買いに行ったらええやないの。」
「小春!さすが小春やな!ほな、明日誘ってみるわ!」
という会話がされたのが、ついこの間の木曜日で、今小春のアドバイス通り伊織とデート(もうデートって言ってもええよな、付き合ォとるもんな)している真っ最中。
伊織には言わんと、おそろいで買えそうなもんをそれとなく探そうて思ってたんに、なかなか伊織が欲しいもんが見つからん。
さっきやって、やっぱひかれるかもしらんけどおそろいの指輪欲しいなー思て指輪屋さん行こうとしたらめっちゃとめられるし。(ユ、ユウジ君!あれジュエリーショップだから!婚約指輪とか買うところだから!)
ネックレス見とったら伊織にそれとなく別の店行こうて言われるし。(なんだろう、可愛いチョーカーなのにユウジ君が持つと悪寒が。まさか首輪とか、思ってないよね、いやユウジ君がそんなこと思うわけないか。)
ピアスあいてないからつけられないっちゅーから、俺があけたろか?って聞いたら若干涙目で首横にブンブン振るし。(すごくキラキラした目で、あけたろか?って聞いてきたんだけど、なんで?痛いのやだよ!)
今んとこ、白石たちが言うたやつは全滅やな。
俺は伊織とおそろいやったらなんでも嬉しいんに、なんて、恥ずかしゅうて伊織には言われへんけどな。
「お、あそこ入るか?」
伊織が好きそうな雑貨屋やんを見つけて声をかけると、伊織は、嬉しそうに首を縦に振った。
「うん!なんか可愛らしいお店だね!(よかった!やっとおそろいのもの買えそうな店だ!)」
店に入ると、やっぱり伊織が好きそうなものがたくさんやった。髪留め、はアカンよな。俺つけへんし。シャーペン、まあアカンくはないけど、はじめて買ったおそろいが文房具っちゅーのはちょっとな。また次にしよ。
「ねえ、ユウジ君、こういうの好き?」
伊織を見ると、クリスタルと藍色の石のシンプルなストラップやった。
伊織やったらもっとかわええもん選びそうなんにと思いつつも、ええな、好きやで、と言うと伊織はめっちゃかわええ笑顔になった。アカン、ほんまにめっちゃかわええ。
「じゃあ、あのさ、私こっちの色違い気に入ったんだけど、ユウジ君これ、買ったらつけてくれる?」
伊織はさっき俺に見せたストラップの色違いを見せながら、少し不安げに聞いてきた。薄桃色のかわええストラップや。
なるほど、さっきのは俺のを選んでくれとったんか、と思うと嬉しゅうて顔がにやけそうになったから、眉間に力を入れて堪えた。
「あ、ごめん!こういうのやっぱり嫌だったかな。」
あわててストラップを棚に戻そうとする伊織の手から、ストラップを2つ奪い取った。
「え?ユウジ君?」
「お、俺も偶然このストラップ気に入ったさかい、買ォてくるわ。」
伊織はキョトンとしてから、かわええ笑顔になった。
「な、なんやねん。ただデザイン気に入っただけやで!」
「うん、でもおそろいだね。」
嬉しいな、と可愛く笑いながら呟く伊織を見て、俺も嬉しくなった。
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