mission1:妬かない
伊織と付き合うことになってからしばらくたった。
付き合う前は伊織が他の男と話しとるだけでイライラしたり、伊織から他の男の名前が出てくるだけでムカムカしたり(もちろん小春でも、や)、伊織が俺に気づかんと俺の隣におる小春に声かけるだけでショックうけたりしとったけど、もう、今はそんなことあらへん。
なんてったって俺は伊織の彼氏やからな。伊織が好きなんは俺やからな。せやから他の男の存在なんて気にする必要あらへん。全然あらへん。
「ユ、ユウ君?なんやめっちゃ手ェギリギリ握りしめてへん?」
気にする必要なんて全くもってないねんけど、やっぱ気になるに決まってるやろ。なんやねんあの男、伊織にヘラヘラ話しかけよって。伊織もなんでこっち来ォへんねん。
「ユウ君、血とまる、血ィとまってもォとるって!」
「あ?ああ、ほんまやな。」
ほんまやな、やないやろユウ君!と言う小春に、おー、と生返事をすると、頭をペシッとはたかれた。
「そんなに伊織ちゃん気になるんやったら、そんな自分の腕握りしめんと伊織ちゃんとこはよ行ってきィ。」
「ん。」
せやな。ここは彼氏らしくガツンと言ったる。
「伊織!」
「あ、ユウジ君!」
伊織は俺の彼女やろ!他の男んとこやのォて俺んとこ来んかい!と言おうと思っていたのに、声をかけた瞬間に振り返った伊織の笑顔の可愛さに出鼻をくじかれた。
かわええ。しかも俺の名前呼びながらの笑顔とか、なんやめっちゃかわええやん。
「神崎、ほなこれ委員会に提出しとくなー。」
「うん、ありがとう。またね。」
あ、男去ってった。
「なんやねん、あいつ。」
「え?委員会一緒の子だよ。今日提出のプリントのこと話してたの。」
アカン、なんか完璧に出遅れた。
他の男と話すなや、とか今言ったら、俺、委員会の仕事さえ認められへんめっちゃ心狭い男やんけ。
「わ、ユウジ君、手どうしたの?なんか凄い赤くなってるよ。」
さっき握りしめとったからやろな、と思っていると、伊織がいきなり赤くなっとる俺の手に自分の手を置いてきた。
「お手あて〜。」
「、くっ!」
なんやねん、お手あて〜てなんやねん!めっちゃかわええねんけど!
アカン、今の録音して伊織のメール専用の着信音にしたい。いや、着信音にしたら他の奴に聞かれてまうから、家で一人で聞こう。
「痛くない?」
「お、おう、痛ないで。」
伊織の可愛さで心臓しめつけられて、別のところが痛いけどな!
「よかった。なんかユウジ君、眉間にシワよってたから痛かったのかなって心配したよ。」
伊織は、もう眉間のシワもなくなったね、と俺の眉間を人差し指でツンツンと突いた。
アカン、伊織ほんまいつもいつも俺のツボついてきよる。
「あー、もう、伊織かわええ。これ以上惚れさしてどないするん。」
伊織は一瞬驚いた顔をしてから、顔を赤くさせた。
「私はユウジ君のこと、とってもとっても大好きだから、ユウジ君にももっともっと私のこと好きになってもらえたら嬉しいな。」
「もとからめっちゃ好きや、アホ。」
伊織のことめっちゃめっちゃめっちゃめっちゃ好きやから、妬かないとか無理な話やけど、
「ありがとう、ユウジ君。」
それでも、伊織の笑顔一つで、そんな感情全部消えてまうんやから、ほんま伊織にはかなわんな。
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