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これが自然体やねん


こないだの神崎なんか可愛かった。

俺が隣におらんかったから寂しかったとか、もう、なんやにやけそうになる。

朝練が終わったときに、謙也さんがまた、隣の子関係でええことあったんか?若干にやけてんで。とか言って詳しく話せと引き止めてきたけど、それを適当に流して教室に急いだ。

金曜は熱ありそうやったけど、土日休んだからきっともうよくなってるやろ。

せっかく神崎が学校来とんのに、俺が教室におらんかったらアカンよな。

なんてったって、一日離れとっただけで、財前君が隣にいなくて寂しかった、やもんな。ほんましゃーないな、神崎は。

「あれ、おらん。」

口の端があがりそうになるのを抑えて教室の扉を開けると、神崎はおらんかった。

今日も休みかと思ったけど、鞄はあるから来とるみたいや。

教科書か何か忘れたもん借りに他のクラス行っとるんやろか?

アホやな、神崎は。そんなん、言ったら俺が見したったんに。

まあ、そのうちすぐ帰ってくるやろ、と思って音楽を聴きながら机に突っ伏した。

せやけど、結局神崎が帰ってきたんはホームルーム開始のギリギリ前やった。

久しぶりに会った他のクラスの奴とかと話しこんどったんやろか。ま、しゃーないな。





なんやねん、ほんま神崎なんやねん。

朝のホームルーム前におらんかったんは、まだ納得したけど、毎回毎回授業終了とともに教室を出て、授業開始ギリギリ前に戻ってくるっちゅーのはおかしいやろ。

隣におらんかったら寂しいんとちゃうんか、ここおれや、と言おうとしても、すぐに出て行ってしまうから話しかけられないし、帰ってきてから言おうとしたら、もう授業始まるよ、とか言ってくるし。

ならもっとはよ帰って来んかい。

絶対昼休みは逃がさん。

今の授業が終わったら昼休みやから、授業終わりとともに教室から出て行くであろう神崎から目を離さないようにした。

教科書を一切見ずに、神崎だけをめっちゃ見ていたら、視線に気づいたのか、神崎が俺側の肘をついて顔を隠してきた。あ、なんか冷や汗たらしとる。

神崎の顔を見ようと俺が少し前にずれたら神崎が肘を前にずらして隠す、そしたらまた俺が見える位置にずれ神崎が見えないようにずらす。

こんな地味な攻防を続けていたら、授業終了のチャイムがなった。

それと同時に神崎の腕を掴んで逃げられないようにした。

「神崎、ちょっと来いや。」

神崎はめっちゃ複雑そうな顔をしながら一応ついてきた。

人があんまおらんとこまで来てから、神崎に向き直った。

「自分ほんまなんやねん。全然教室おらんし。」

「えっと、ちょっと用事があって、」

「用事ってなんやねん。そんな毎時間毎時間用事があってたまるか。てか、俺が隣におらんくて寂しかったって言っとったやんけ。なら隣おれや。」

俺がそう言うと、神崎はあたふたしながら、いや、あれはつい言ってしまったというか、というか恥ずかしいから忘れて下さい、とか言ってきた。

ついってなんやねん、ついって。

「アホ、忘れるわけないやろ。」

「いや、そこは忘れようよ。覚えておくほど重要じゃないって。」

「ほんま神崎はアホやな。俺、神崎が言ったことで忘れとることなんて、多分一個もないで。こんだけ忘れへんっちゅーことは、そんだけ重要やってことやろが。」

俺が呆れてちょっと笑いつつそう言うと、神崎は顔を真っ赤にした。

「なんや、顔赤いで。まだ熱あるんか?」

ほんならなおさらどっか行かんと教室で大人しくしとかなアカンやないか、と続けようとするより早く、神崎が口を開いた。

「もう、財前君は心臓に悪い。」

「は?なんやねん、それ。」

心臓に悪いって、俺そんな驚かすようなことしてへんやろ。

「いつもいつもナチュラルに私がドキドキするようなことしてくるし、こないだ、風邪ひいたときに言ったこと、恥ずかしいから忘れて欲しいのに、忘れてくれないし、私の言うこと重要だって言うし。今日だって、もうドキドキさせられっ放しなのに、だからちょっと避けてたのに、財前君私のこと掴まえてくるし。もう、私ばっかり財前君のこと意識して、やだよ。財前君は全然普通なのに。」

神崎は、もういっぱいいっぱい、って感じだったけど、なんとかそこまで一息で言うと、ふぅ、と息をはいた。

「だからね、あんまり構わないで、欲しいんだけど。」

「あ?」

何言うてんねん、と思いながら眉にしわをよせると、神崎は肩をビクッとさせた。

「構うなってなんでやねん。」

「いや、だから心臓に悪いから、」

「アホ、そんなん理由になるか。」

神崎はなおもいろいろ言っとったけど、俺がその理由を全て却下すると、ちょっと怒ったみたいに語気を荒げた。

「だからねっ、財前君からしたら普通のことかもしれないけど、私からしたら口説かれてるのかな、って勘違いするくらい刺激が強いの!私は好きなの、財前君のこと!好きな人からドキドキすることたくさん言われてるのに、別に深い意味はなくて、ただ自然に言ってるだけだなんて、かなしいに決まってるでしょっ!」

神崎は最後に、財前君の馬鹿ー!と言って、走り去って行った。

なんか、怒られてもた。

なんでやねん。何があかんねん。

俺のこと嫌いやから構うなって言っとるんかと焦ったら、好きやって言うし、だったら何が問題やねん。

そう思いながら、ふらふらしとったらいきなり腕を掴まれた。

神崎が帰ってきてくれたんか、と期待して見ると、謙也さんやった。

「はぁ。」

「なんやねん、人の顔見るなりため息つくなんて失礼なやっちゃなー!」

「うっさいっスわ。」

「なんやねん今朝は気持ち悪いくらい上機嫌やったんに、なんで半日たたんうちにこんなにへこんでんねん。」

そんなあがったりへこんだりしてへん、と思いつつ、さっきあったことを謙也さんに言うと、謙也さんは片方の頬をひきつらせ呆れたような顔をした。なんか腹立つ。

「ざ、財前お前なんでそこで、俺も好きや!とか言わへんねん!」

「は?」

「は?ちゃうわ!てかあんだけわかりやすいのに無自覚やったんか!おそろし!」

無自覚てなんがや。てか俺が神崎を好き?

「なに言ってんスか、謙也さん。いや、そら神崎のことは嫌いやないし、うっとうしくもないし、見てたらおもろいし、話しとったらなんか落ち着くし、触りたくなるけど、別にそれだけっスわ。」

謙也さんは頭を抱えて、うあー、と叫んだ。うるさい。

「なんやねんお前!それ素やったんか!てっきり照れ隠しかと思っとったで!」

照れ隠しとか、なんで謙也さんの前で照れなアカンのですか、と言うと、謙也さんは、ええからちょっと黙って聞けぇ、と言ってきた。

「あんな、えっと隣の子、神崎さんやったよな、その神崎さんとな、」

「謙也さん、馴れ馴れしく神崎さんとか呼ばんといてくれますか?」

ほななんて呼べっちゅーねん!と言う謙也さんに、隣の子でええやないですか、と言うと、このままやと話が進まないと思ったのか渋々やけど一応素直に聞いてくれた。

「ほんでその隣の子とな、俺が付き合ったりしたらどない思、・・・うわっ、顔怖っ!例えやから!例えばの話やから!」

「ありえんっスわ。なんでこんなヘタレと。」

謙也さんは、とりあえずヘタレ言うたのはおいといたるわ!と言ってから続けた。

「ほな白石やったら?」

「変態やからアカンすわ。」

「小春とユウジは?」

「ホモはありえへん。」

「銀は?」

「師範とは身長差ありすぎや。神崎が見上げるときに首いためたらどないすんねん。」

「お前敬語!敬語消えてんで!」

あースンマセンスンマセン、と棒読みで言うと、謙也さんは、ほんま腹立つやっちゃなー!と言ってきた。

「ほな、自分とやったらどうや?隣の子と財前が付き合うなんてことになったりしたらどない思う?」

俺が神崎と付き合う?

「悪くないんとちゃいます?」

「他の男と付き合うとか想像しただけでそんな顔怖ぁなっていちゃもんつけて、でも自分とやったら付き合うん悪くないっ思う。それってなんでや。」

「なんでてそんなん・・・、ああ、せやったんか。」

よっしゃ気づいたか!とテンションあがった謙也さんにそれを言うのがなんやしゃくだったから、ほなまた、とだけ言って謙也さんの前を去った。

謙也さんは、なんやねんお前!と騒いでいたけど、神崎んとこ行かなアカンので、と言うと頑張ってこいやー!とガッツポーズをつくった。まあ、なんだかんだで、ええ人やんな。





神崎さっき怒らしてしもたもんな。話聞いてくれんかったらどないしよ、と思いながら神崎を探した。

前へこんだり頭が煮詰まったりしたときは校舎裏の花壇に行くっちゅーとったからそこやろか、と急ぐとビンゴやった。

「神崎。」

「うわわわわ!財前君!」

神崎は俺が声をかけると慌てたように花壇の縁から立ち上がった。

「神崎、さっき俺が神崎にしとることは深い意味とかなくて普通やって言っとったけど、ちゃうねん。」

困惑した顔で、でもいつもすごく自然体だった、と言う神崎に、やって自然体やからな、と言うと、神崎は、やっぱり天然タラシだ!と言ってうなだれた。

「誰が天然タラシや、アホ。」

「だってあんなのが自然体だなんて。あんなの毎日されたら、女の子みんな財前君のこと好きになっちゃうよ。」

俺が、はあ、とため息をつくと、神崎はちょっと頬を膨らませてむくれた。

うわ、なんや神崎もこんな顔すんねや。

「神崎のそんなむくれた顔初めて見たわ、かわええな。」

「な、なな!だからね、そういうのを自然体でしちゃうのが問題なんだってば、財前君の馬鹿!」

次は顔真っ赤にした。怒っとるんやろか、照れとるんやろか。かわええな。でもここでまたかわええって言ったら怒るんやろな。

「自然体でいろいろ構ってまうくらい神崎のこと好きなんやからしゃーないやろ。」

「しゃーなくない!・・・え?」

あ?なんかいきなり黙りよった。どないしたんやろ。

「どないしてん。」

「え、・・・好き?」

「好きやで。」

「財前君が、私を?」

「俺が神崎を。」

ちょっと頭の整理をさせてくれと言う神崎を見ていたら、百面相でなんか考えだした。

「何をそんな考えることがあんねん。俺は神崎が好きやねん。神崎も俺好きやってさっき言ったやないか。」

今まで触りたかったけど、彼女でもないのにアカンと思ったから我慢しててん。(髪はノーカンや、しゃーないしゃーない。)

せやからお互い好きやって認識した今、はよ抱きしめたいんやけど。

「いや、だってそんなそぶりなかったし、いきなり好きって言われても、どうしたらいいか、」

なんや戸惑っとる神崎を落ち着かせるために、神崎の頭をポスッと俺の胸にあずけて抱きしめた。神崎も落ち着くやろし、俺も嬉しいし、一石二鳥やな。

「今まで自分でもはっきり気づいてなかってん。せやからいきなり好きやって言われてもびっくりするやろうけど、自分でも気づかんうちに神崎のことなんやかんや構ってまうくらい、惚れてんねん。」

抱きしめられた神崎は初めは肩が強張っていたけれどだんだん肩の力が抜けて、控えめに俺に身をあずけてきた。

「せやから、これからも俺の隣におってくれへんか。」

「私も、財前君の隣にいたい。」

神崎はちょっとはにかんだような顔で俺を見上げた後、照れたのか俺の胸におでこをくっつけて顔を隠した。ほんまかわええ。

これからは席が隣やなくても、神崎は俺の隣におってくれるんかと思うと、めっちゃ嬉しくなった。

耳を真っ赤にさせて俺に抱きしめられている神崎を見て、幸せやな、と思ってちょっと笑った。


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