天然タラシにも程がある
こないだ財前君がお見舞いに来てくれたとき、私、なんだかとっても恥ずかしいことを言ってしまた気がする。
いや、気がするというより、確かに言った。財前君が隣にいないから寂しかったとかなんとか。
財前君が、私を見てたら元気がでるとか、隣におってやとか言うから、ついつられてしまったんだよ。
なんて、人のせいにしてみても、もうろうとしているときの言葉って、結構本心なんだよね。
財前君の発言が天然たらしなのはいつものことだから、気にしたらいけないのに。
というかね、いつも気にしないようにしてるけど、財前君は本当天然タラシにも程があるよ。
この間も、いきなり私の髪の毛に手をのばしてくるから、何?って聞いたら、髪柔らかそうやなって思ったら触りたくなってん、とか言ってくるし。
担任の先生に授業で使った資料集を資料室に戻すように言われたときは、自然に私の両手から資料集をうばってきて、運べるから大丈夫だよ、って言ったら、アホ、重くてお前の手赤くなってるやないか、手小さいんやから無理すんなや、とか言うし。
授業中、雨あがりの虹に気をとられていたときに先生に教科書読むようにあてられてあたふたしてたら、すぐに、今ここやでって教えてくれて、授業終わった後にお礼言ったら、神崎が虹に見とれとるの、なんか綺麗で絵になっとったからほんまは邪魔したくなかってんけどな、とか言うし。
なんなんだ、この天然タラシは!
もう心臓もたないよ。
最初はね、もしかして私のこと好きなのかも、なんて自惚れたことを考えたりもしたけど、財前君があまりに自然体だから、すぐにそんな考えはなくなった。
財前君からしたらきっとあれが自然なんだよね。ドキドキしすぎて私の心臓には悪いけど。
ああもう、それにしても、財前君、こないだの私の発言どう思ったかな。
一日会わなかっただけなのに、隣にいなくて寂しかったとか、アホちゃうかとか思われてないかな。
いや、アホならまだいいけど、気持ち悪いとか思われてたらどうしよう。
ああ、もう、明日は月曜日なのに、学校行きたくない!
いつもは財前君が隣でちょっと嬉しいなって思ってたけど、初めて隣の席なことを悔やんだよ。
もしかしたら財前君は私の発言なんて全く気にしてないかもしれないけど、きっと私が意識してしまってうまく話せないだろうな。
よし、明日の自由時間はあまり自分の席にいないで、ほかの教室とかに行こう。
何日かしたら、また気持ちも落ち着くよね。
一応自分の中で納得がついたからか、なんだかようやく眠くなってきた。
時計を見ると、いつも寝る時間よりも1時間以上遅かった。どんだけ悩んでたんだろう、私。
明日、華麗に財前君をかわす自分を想像しながら、ゆっくりと眠りについた。
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