隣におってや
今日は金曜日。
明日は神崎との約束の日やけど、神崎は学校に来ぉへんかった。
担任によると、風邪らしい。
明日の映画は無理か。
まあ、しゃーないけど。
「誰か、神崎の家に今日のプリント届けてくれへんかー?」
「あ、俺行きますわ。」
「さよかー、ほな財前頼むでー。」
担任から受けとったプリントを見て、あれなんで俺こんなん率先して引き受けてんのやろ、と少しいぶかしんだ。
まあ、隣の席やもんな、別に気にせんでええか。
神崎の家のチャイムを鳴らすと、神崎のオカンが出てきて、なぜか神崎の部屋に通された。
俺プリント届けに来ただけなんやけど。
「神崎、起きとるか?」
「えっ、な、財前君!?」
声が聞こえて起きてるんやな、と思って中入ってもええか聞くと、戸惑いながらも、大丈夫だよ、と返事があった。
ベッドに腰掛けた神崎は、顔が少し赤くて、熱あるんやろなって思った。
「これな、今日のプリントや。あと、これ、ゼリー。」
神崎、前に風邪ひいた時は桃のゼリー食べたくなるって言っとったから。
「届けてくれてありがとう。あ、桃のゼリーだ。私これ好きなんだ。風邪ひくと特に食べたくなるんだよねー。」
うん、知っとる。
「財前君?」
「なんや?」
顔をあげて神崎を見ると、少し心配そうな顔の神崎と目があった。
「どうしたの?元気なさそう。」
「アホ、元気ないんは神崎やろ。」
いや、そうなんだけど、そうじゃなくて、と言いながらあたふたする神崎を見て、今日一日のテンションの低さの原因がわかった。
「神崎が、」
「うん?私?」
なんだろう、と首を傾げる神崎の両手を俺の両手で包むようにして掴んで、その手を見つめながら続けた。
「おん。神崎がおらんかったから、なんか調子でえへんかった。」
「えっ、」
「神崎が隣におったらなんか元気でんねん。神崎見とったらそれだけでなんや疲れもふっとんでくんや。せやから神崎、はよ元気なってや。」
ほんで、俺の隣におってや、と言ってから顔をあげると、さっきよりもっと顔を赤くした神崎がいた。
話しすぎて熱あがってしもたんやろか。
体に障らんうちにそろそろ帰ろうかとしたら、神崎が、あのっ、と口を開いた。
「私も、今日、財前君が隣にいなくて、なんか、何て言うか、寂しかった、な。」
だから、今日はお見舞いに来てくれて、凄く嬉しかった。ありがとう、とはにかんだように笑う神崎を見て、なぜか抱きしめたい衝動にかられた。神崎は風邪や、病人や、抑えぇや俺。
「はよ元気なってや。映画はまた元気なってから行くで。」
「うん、風邪治ったらまた誘ってね。」
当たり前や、と言うと神崎は嬉しそうに笑ったから、俺まで嬉しくなった。
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