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ただ単に弁当が美味かっただけや


「なんや財前、今日は珍しく朝から機嫌ええなあ。」

朝練を終え、着替えていると、なんかええことでもあったんか、と謙也さんが聞いてきた。

「別に何もないっスわ。目おかしいんとちゃいます?」

謙也さんが怒って何か言うとるのを放って、自分のクラスに向かった。

今日は神崎が弁当作ってきてくれとるはずや。

食べるのは昼やけど、今すぐ食べたいくらいや。

「はよ、神崎。」

「財前君、おはよう。」

自分の席に行くと、神崎は隣の席に座って本を読んどった。

「いや、おはようとちゃうやろ。」

ここは朝一で弁当渡すとこやろ。照れながらやったらなお良しや。それなのに何朝の挨拶だけして本読んでんねん、と思ってつっこむと、神崎は本から目をあげて首を傾げた。

「・・・今、朝だよ?」

だからおはようで合ってるよね?とでも言いたげな神崎を見て、俺は盛大にため息をついた。

「ああ、せやな、おはようおはよう。」

神崎が、なんかとげを感じるよ!と言っとったけど、気にせず席に着いた。

なんやねん、さっさと弁当渡せや。

でも、そんなこと言ったらめっちゃ楽しみにしとるみたいやないか。

絶対言ったらん。神崎が弁当渡すまで、絶対俺からねだったりせえへんからな。





そんな意地をはっとったら気がついたら昼休みになっとった。

今朝から一切弁当の話はしてへん。

もしかして忘れとるんちゃうか?神崎アホやからな。

まあ、そんな抜けとるとこも可愛くなくもないけど(あくまで一般的にやで、俺が個人的に思っとるわけとちゃうからな)

「財前君。」

「・・・なんや。」

これで弁当の用件やなかったらしばくで、と思いながら神崎を見ると、弁当の包みを持ってこっちを見ていた。

「お弁当、昨日わけてくれてありがとう。これ、よかったら食べて。」

じゃあね、と席を立とうとする神崎の腕を掴んでひきとめた。

「どこ行こうとしてんねん。」

「え、どこって、友達とお弁当・・・」

「俺はお前が作った弁当食べるんやで?反応気になるやろ?」

別に気にならない、と言いたげな顔をした神崎に、あ?と凄むと、気になります!と勢いよく言われた。

「せやろな。そらそうや。ほな一緒に食べるで。」

適当に人が少ないところに移動して開いた弁当箱の中を見ると、めっちゃ美味そうやった。

これを今朝神崎が作ったんやんな、俺の為に。

そう思うと顔がにやけそうになったから、とりあえず、いただきます、と言ってから卵焼きを食べた。

めっちゃ美味い、なんやこれ。

他のおかずもめっちゃ美味い。

こんな美味いもん、初めて食ったわ。

神崎、プロなんちゃうか。

自分も同じ中身の弁当を食べながら、口にあえばいいんだけど、と神崎が言ってきた。

「ああ、美味いで。」

「そっかよかった。」

こんなん、毎日食べたいくらいやわ。





部活が終わった後帰る仕度をしとったらいつもと違う弁当箱を謙也さんに見つけられ、隣の席の奴の手作りっスと言うと、謙也さんは納得した顔をした。

「ああ、せやから朝から機嫌よかったんやな。美味かったか?」

「まあ、美味かったっスわ。」

「せやろな、好きな子の手作りとか美味いに決まっとるわな。」

羨ましいわ〜、と言う謙也さんにため息をついた。

「何言ってるんスか。まあ、確かにプロより美味いって思いましたけど、ただ単に弁当が美味かっただけっスわ。」

ニヤニヤしとる謙也さんを放って、また作ってくれたらええのになと思いながら、弁当の包みを鞄に入れ直した。


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