貸したるって言うてんねん
昼休みになって、隣の神崎を見とったら、何かわからんけど困っとった。
どうかしたんか、と聞く前に神崎の友達がやってきた。
「伊織、どないしたん?ご飯食べようや。」
「あー、忘れちゃったみたい。お弁当もお財布も。」
神崎と友達の会話が聞こえてきて、ほんまアホやな神崎は、と思った。
「あははっ、どっちかでも持ってきとったらよかったんになー。両方忘れるとかほんまアホやな。」
俺も同じこと思っとったんやからお前が言うなや。俺が神崎に言おうとしとったのに。
「まあ、500円貸したるから・・・」
「神崎。」
俺は、神崎の友達が500円貸すって言いかけたのを遮って神崎の名前を呼んだ。
「行くで。」
「え?」
神崎はなにがなんだかわからないというような顔で俺を見てきた。
「ほんまアホやな。なんで分からへんねん。弁当半分わけたるからどっか落ち着いたとこ行くでって言うてんねん。」
そんくらい分かれや、というと、それで理解するのは無理があるよ!、と言われた。
「というか、悪いよ。お弁当もらうなんて。」
「は、誰があげるって言うたかアホ。弁当半分貸したるって言うてんねん。弁当借りたんやから弁当で返せや。明日にでも弁当作ってくるんやな。」
まだ食い下がる神崎に、友達に金借りんのも俺に弁当借りんのも変わらんやろ、と言うと、いや変わるよ、と言われた。
「えっと、自分ら付き合っとったん?」
そういえばまだおったんかと思いながら、さっき神崎に500円貸そうとしとった神崎の友達に言った。
「は、んなわけないやろ?」
「うんうん、そうだよ!付き合ってない、付き合ってない!」
なんかイラッとした。
「おい、そんな全力で否定すんなや。弁当貸したるっちゅーとるやつに対して失礼なやっちゃな。」
ちょっとニヤニヤしながら、なんかお邪魔そうだからまたね、といなくなる神崎の友達を神崎はひきとめたようとしとったけど、それより早く神崎の腕を掴んで歩きだした。
「え、どこに。」
「さっきから言うとるやろ。弁当や弁当。こんな騒がしいとこやなくて落ち着いたとこで食べるで。」
神崎はまだ納得してない顔だったけど、一応腕を掴まれたまま着いてきた。
「えっと、お弁当ありがとう。明日持ってきたらいいの?」
「おう。自分で作ってこいよ。」
「そのお弁当は財前君が作ったの?」
いや俺のおかんやでと言うと、神崎は不公平だと言っていたが、んなこと気にしない。
明日神崎は俺の為に早起きして弁当作るんやな、と思うと、なんだか気分がよくなった。
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