long | ナノ


step5:突進する


放課後、教室から出たところで小春ちゃんを見つけた。

「あ、小春ちゃ〜ん。」

「伊織ちゃん!昨日はユウ君とどうやった?」

「、っ!」

小春ちゃんに昨日のことを聞かれて、思わずユウジ君と手を繋いだことを思いだした。

「ふふっ、楽しかったみたいやね。」

「うん、とっても。クレープ食べて、可愛い手芸屋さんに行ったんだ。」

「よかったな〜。」

昨日迷ってた布とボタン、やっぱり可愛かったから、また今度一人で行った時に買おうかな。

「おい、伊織!何楽しげに小春と話しとんや!」

「あ、ユウジ君!」

私が振り向くと、ユウジ君は私に何か手渡した。

「わ、わあ!可愛いポーチ!これ、昨日の布だよね?」

「やる。」

え、そんな、いいの?と戸惑ってユウジ君を見たら、ユウジ君は顔を真っ赤にさせて大きな声を出した。

「つい作ってしもたからやるって言うてんねん!俺がこんな可愛いポーチ使うわけないやろ!?いるんか!?いらないんか!?」

「い、いる!」

つい勢いにのまれて首を縦にブンブン振ってうなずくと、ユウジ君はそっぽを向きながら、ほんなら貰っとけ、と言った。

改めて手元を見ると、ユウジ君のくれたポーチはとっても丁寧につくられた感じがした。

「あ、昨日私が見てたボタンもついてる!本当にありがとう、ユウジ君。大切に使うね。」

ユウジ君はそっぽを向いたまま、おう、と返事してくれた。

ユウジ君は、優しい。

前、優しくするから俺も好きになれ、って言われたけど、あれ、どういう意味だったんだろう。

最初は、小春ちゃんをとられたくないから言ってるんだと思ってたけど・・・。

「先輩ら、今から部活やのに、こんなとこで何やってんスか?」

私が自惚れた考え事をしてたら、ユウジ君たちの後輩らしき人が話しかけてきた。

「光きゅんやないの〜。アタシを迎えに来てくれたん?」

小春ちゃんがクネクネすると後輩君は、アホらし、というような顔でため息をついた。

でも小春ちゃん楽しそうだから、仲いいんだな、と見ていたら後輩君と目があった。

「何スか?この人。彼女っスか?」

「な、なななな何言うてんねん、アホ!彼女なわけあるか!」

確かに違うけど、そんなに全力で否定されたら、ちょっと寂しいかも。

「別にどっちの彼女かとか言ってないのに、反応しすぎやないですか?」

先輩ダサいっスわ、と後輩君が口の端をあげて言うと、ユウジ君はさっきよりも凄い勢いで叫んだ。

「こ、小春の彼女とか、もっとありえないんじゃボケ!」

「え。」

私が、小春ちゃんの彼女はもっとありえないってことは、ユウジ君の彼女のほうがありえない割合が少ないのかな、と思ってつい声を出すと、ユウジ君が怒ったような顔で私を見た。

「なんや伊織!小春の彼女になりたかったんか!?やめとけやめとけ、なれるわけないやろ!小春はな、優しくて頭もよくて可愛くて綺麗で面白いねんぞ!?お前が彼女とか無理に決まってるやろ!」

「、っ!」

「な、ななんで泣いてんねん!」

「なん、なんでも、ないっ!」

私は悲しくなって、ユウジ君の前から走り去った。

なんて恥ずかしい自惚れ。

ユウジ君が「小春の彼女はもっとありえない」って言ったのは、「ユウジ君の彼女にはもしかしたらなれるかもしれないけど、小春ちゃんの彼女になるのはありえない」って意味じゃなくて、「小春ちゃんが素敵すぎて私となんて釣り合わないから、ありえない」だったんだ。

ユウジ君、あんなに小春ちゃんのこと大好きだったんだ。

私はもう何も考えたくなくなって、家までただただ走って帰った。


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