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素敵なお客さん


いつものように学校へ行く前の早朝、庭に来た。鳥の声を聞きながら、庭の手入れをする。花が息をしやすいように、周りの草を抜き、今日もいい天気だね、お日様たっぷりあげてね、と話しかけながら水をあげる。時間はあっという間に過ぎ、そろそろ日記を書こうと、と日記のもとに向かった。

昨日の朝、ハンカチを拾ってくれたお礼を書いたけど、何か返事来てるかな。それとも、偶然あの日に来ただけで、もう来ないのかな。少し期待しながら、日記帳をのぞいた。

『どういたしまして。毎日手入れしてんのか。なんかあったかい庭だな。』

「返事、来てる。」

自分の筆跡ではない文字を見つけて、思わずそう呟いた。


「おはよう、伊織ちゃん。」

いきなり後ろから声をかけられ、少し驚いて振り向くと、庭に面した大きな窓から美智代さんが顔を出していた。

「あ、美智代さん。おはようございます。」

日記を持ったまま挨拶を返すと、美智代さんは、あら、と微笑みながら小首をかしげた。

「伊織ちゃん、何かいいことでもあったの?とても嬉しそう。」

そんなに顔に出てたかなと、日記を持っていない方の手で顔をおさえた。

「実は、最近この庭に新しいお客さんが来てるみたいなんです。この前、ここで落としたハンカチを拾って日記のそばに置いてくれていたので、そのお礼を書いたら、返事が来たんです。」

言いながら、これです、と美智代さんに日記帳を見せた。美智代さんはゆっくりと一字一字を追うように日記を見てから、私を見た。

「あったかい庭、ですって。素敵なお客さんみたいね。」

「はい。」

美智代さんから日記を受け取り、元気に頷いた。愛情込めて手入れしている庭を、あったかい庭だなんて言ってもらえるのは、とっても嬉しい。こんな風に感じてくれたのなら、きっとこの人は素敵なお客さんだ。私も美智代さんの考えに賛成だった。

「美智代さん、この人に会ったことありますか。」

どんな人なんだろうとワクワクしながら聞くと、美智代さんは、

「残念ながらまだお会いしたことないわ。私、寝るのが早いから、もしかしたら、その後に来ているのかもね。」

と片手を頬にあてて言った。

「そうですか。」

「あら、伊織ちゃん。そろそろ学校の時間じゃないの。」

美智代さんに言われて時計を見た。

「本当だ、もうこんな時間。日記書くくらいの時間はありそうですから、書いたら学校へ行きますね。また明日。」

笑顔で手を振って部屋の中に返って行った美智代さんに手を振り、日記帳を開いた。いつものように今日の手入れの内容を記してから、少し行間を開け、

『毎朝、学校へ行く前に来て、手入れしてるよ。私この庭が大好きだから、あったかい庭だなんて言ってもらえて、すっごく嬉しい。あなたも毎日ここへ来ているの。』

少し、長文過ぎただろうか。返事が来て嬉しくてうかれているのが丸わかりだ。だけど、まあ、嬉しかったのは本当だし、隠すこともないか。

明日返事来てるかな。ワクワクする気持ちをおさえきれずに、ふふっ、と笑って、日記のそばにペンを置いた。

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