step4:デートに誘う
「おい、伊織!ちょっと放課後ツラ貸さんかい。」
今日はテニス部休みなんよ、へえ珍しいね、という会話を小春ちゃんとしていたら、いきなり凄みのある表情のユウジ君に話しかけられた。
あんなに眉よせて、痛くないのかな。
「あ?なんで返事せえへんねん!聞いとんのか!?」
「あ!うん、聞いてるよ。」
「じゃあ校門前で待っとれよ!先に帰ったりするんやないで!」
それだけ言うとユウジ君は自分の教室の方へ走り去って行った。
「なんだったんだろう?」
「ユウ君、ちょっと不器用さんやからな〜。」
手先はすっごく器用なのにね、と言うと、そういうのとはまたちゃうからね、と小春ちゃんに優しく笑われた。
その後の授業はなんだかユウジ君のことが気になって、あまり授業に身が入らなくて、あっという間に放課後になった。
「お、伊織!ちゃんと待っとったな!」
「ユウジ君と約束あるのに、先に帰るわけないよ〜。」
「あ、当たり前や!ほな行くで!」
どこに?と聞く前にユウジ君は私の手首を掴んで歩きだした。
「えっと、どこ行くの?」
「・・・クレープ。」
「食べたかったの?」
「おう。」
ユウジ君、そんなに甘いもの好きだったんだ、と思いながら着いて行くと公園の中の移動販売のクレープ屋さんが見えてきた。
「あ、あのクレープ屋さん?私行ってみたかったんだ!前から気になってたのに、なかなか行く機会がなくて。」
「そ、そそそうなんや!奇遇やなあ!」
誘ってくれてありがとう、とユウジ君に笑いながら言うと、別に俺が食べたかっただけやからな!、とそっぽを向かれてしまった。
美味しいってクラスで噂になってたそのクレープは、本当に美味しかった。
「美味しかったね〜。」
「せやな。ほな、次行くで!」
ユウジ君はまた私の手首を掴んで歩きだした。
「え、次?」
クレープ食べに来たんじゃないの?と思いながらユウジ君を見上げると、ユウジ君が口を開いた。
「・・・手芸屋。」
「手芸屋さんか〜。何買いに行くの?」
「え!?え、えっとなあ、えっと。」
何を買いに行くか聞いただけなのに、何故かユウジ君は困ってしまったみたいだった。
「何か新しいネタの小道具作るの?」
「せ、せや!ネタの小道具、何かええもんかるかなあ思てな!」
ユウジ君は小道具全部自分で作ってて凄いな〜。
「いいもの見つかるといいね。」
「お、おう。」
ユウジ君が連れてきてくれたのは、初めて見る可愛い手芸屋さんだった。
「わあ、可愛い!私こういう雰囲気のお店大好き。」
「ほ、ほう、そんなんか。」
ユウジ君が目をすごく泳がせながら言うから、どうかしたのかな、と見ていると、別に伊織が好きそうやから来たわけとちゃうからな!と言われた。
そんな自惚れてるみたいに見えたのかな?
でも、やっぱり連れて来てもらって嬉しいからいいや。
「わあ、ユウジ君!この布可愛い。苺と猫の柄だよ。あ、こっちも!このボタンも可愛い!」
もう全部可愛いからどれ買うか迷っちゃうよ、と興奮ぎみに言ってから、ユウジ君の用事で来たことを思い出した。
どうしよう、ユウジ君迷惑がってないかな?と不安になってユウジ君の顔を伺うと、ユウジ君は嬉しそうな優しい顔をしてこっちを見ていた。
「な、なんや!?いきなりこっち見んなや!」
「ご、ごめんね!」
この間もそうだったけど、ユウジ君の笑顔を見るとなんだかドキドキする。
私は恥ずかしくなってしまって、いそいで手元に視線を戻した。
「それ買うんか?」
「え?あ、ちょっと迷ってて。こんな布のポーチ欲しいんだけど、私あんまりお裁縫したことないから、うまく作れるかな?」
ユウジ君、もしよかったら作り方教えてくれない?とちょっと緊張しながら言おうとしたら、その言葉を発する前に、持っていた布とボタンをユウジ君にとられた。
「ちょっと待っとれ。」
「え?わかった。」
可愛くてどれも私好みな店内を見ながらユウジ君を待っていたら、小さな紙袋を下げたユウジ君が帰ってきた。
「あ、何か買えたんだ。何買ったの?」
「べ、別にたいしたもんやない!ほな、出るで!」
さっきの布とボタン、まだ買おう迷ってるからまだいたいな、と思ってユウジ君の袖を掴むと、ユウジ君が顔を真っ赤にさせて振り返った。
「な、ななんや!?掴むんならこっちにせんかい!」
「、っ!」
「こ、こっちの方が歩きやすいやろ!?」
「う、うん、そうだね。」
どうしよう。さっきまで気になってた可愛い布のこととか一切考えられなくなってしまった。
ユウジ君と、手、繋いでる。
手首掴まれるとかはたまにあったけど、ちゃんと手と手で繋ぐのは初めてだ。
それから、私はなんだか恥ずかしくなってあまり話せなくて、ユウジ君もなんだか顔が赤くて無口で、二人でほとんど会話がないまま歩いた。
なんだか、今日のってデートみたい。
そう気づいたら、もっと恥ずかしくなってしまった。
ユウジ君の手は大きくて、ゴツゴツしてるけど優しくて、このままずっと繋いでいれたらいいのにな、と思った。
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