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5:二つのラブレター


「神崎、ちょっとええか?」

ラブレターを渡した翌朝、謙也が珍しく少し緊張した面持ちで近づいてきた。

「う、ん。」

同じく緊張を隠せずに頷くと、謙也は、ほな、ちょっと行こか、と歩きだした。着いた場所は、初めて私がラブレターを渡そうとしていた、校舎裏の木の下。

「あんな、俺、神崎が、俺にラブレターの仲介頼んでくれたこと、嬉しかってん。」

謙也の言葉に、わかってはいたものの、胸が痛む。

「そんくらい、俺んこと信用して、頼ってくれてんねんなって思ってな、それが嬉しかってん。神崎とは、一緒におったら、なんやおんなじツボで笑えてめっちゃ楽しいし、一緒に食べたら食い物もめっちゃうまなるし、めっちゃええ友達やと思っとった。」

謙也はそこまで言うと、気合いを入れるかのように、グッと手に力を入れて握った。

「せやけどな、」

数秒の沈黙に耐え切れず、なに?と続きを促すと、謙也は、私の目を見て、両手を差し出した。その手には、白い封筒。

「え、なに?」

「手紙!俺から、神崎へ。ラブレターの仲介頼まれた時、頼られた思って嬉しかったけどな、ラブレターが俺へ宛てたもんやってわかった時のほうが、めっちゃめっちゃ嬉しかってん。」

謙也の言葉を聞いて、思わず息をするのも忘れるくらい驚いた。

「俺、神崎が好きや。気づかせてくれて、ありがとう。気づかん間、無神経なことしてしもて、ほんまに堪忍な。」

そんな、無神経だなんて。確かに傷つきもしたけど、そんな謙也のまっすぐさに、私はやっぱり謙也が大好きだって、思い知らされたんだ。

うまく言葉にならず、私は、気にしてないことを示すため、小さく首を振った。

「こんな俺やけど、まだ愛想つかしてへんかったら、俺と、付き合って下さい!」

少し震える手に、握られた手紙。

先日は、私から謙也へ。でも今日は、謙也から私へ。

「愛想なんて、つかさないよ。」

謙也の手から、手紙を受け取る。

「だって、私も、謙也が大好きなんだから。」

途端に笑顔になる謙也。その笑顔を見て、ああ、本当に謙也は、私を好きなんだな、なんて、ちょっと実感した。


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