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3:大好きなあったかい笑顔


今日も今日とて渡せないままの手紙に目線を落とした。渡す勇気なんてないのに、性懲りもなく学校に持ってきてしまう私は、もしかしたら何かのきっかけと勢いで渡せることを期待しているのかもしれない。

視線を手紙から目の前に移すと、白石となにやら楽しそうに話す謙也の姿。

そのまま謙也をじっと見つめていると、視線に気づいたのか、謙也はこちらに顔を向けた。何を言うともなく謙也を見ているだけの私を不思議に思ったのか、謙也は少し首を傾げてから、ふと何かを思い付いたような顔をして近づいてきた。

あ、どうしよう、手紙、持ったままだ。

「神崎、わかったで、好きな奴。」

謙也は周りに聞こえないように、さらに声を落として言った。

「白石やんな?」

「へ?」

「渡すんを俺に頼もうとしとったってことは、俺と仲ええ奴やろうし。俺と仲良くて、かっこよくて、友達思いで、優しくて、いつも全力な奴って言ったら、白石なんとちゃう?」

謙也は、白石ええ奴やもんな、と笑顔で言ってから、さらに続けた。

「せやから、白石にラブレター渡してきぃや。白石、恋人おらんで。」

きっと謙也は、私と白石が付き合うことになったら誰よりも祝福してくれて、私が白石にフラれたら誰よりも親身に慰めてくれるんだと思う。私が好きなのは白石じゃなくて謙也だから、仮定からして成り立たないんだけど。それでも、私は、こういう友達思いな謙也が、やっぱり大好きなんだ。

「ありがとう、謙也。応援してくれて。」

私が笑ってそう言うと、謙也は照れくさそうに笑った。

「ええねん、ええねん!なんでもこの謙也さんを頼ってや!」

「ありがとう。手紙ね、もう一度ちゃんと渡そうと思うの。だからさ、謙也の時間の空いてる時でいいから、学校帰り、ちょっと一緒に寄り道しない?」

「お、なんか作戦練るんやな!ええで!今日は部活やから、明日でええか?明日はミーティングだけやねん。」

「うん、じゃあ明日、楽しみにしてるね。」

作戦は練らなくても、もう決まってる。しっかり目を見て渡して、謙也が好きですと、はっきり言う。名付けて、しっかりはっきり作戦。

頼ってくれておおきに、と笑う謙也の顔は、やっぱり私が大好きな、あったかい笑顔だった。


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