long | ナノ


step3:笑顔にさせる


「あ、伊織ちゃん!髪型ちょっと変わったな〜。」

お昼休み、購買にパンを買いに行った帰りに小春ちゃんに後ろから声をかけられた。

「さすが小春ちゃんだね〜。前髪ちょっと切っただけだから、他の友達には気づかれてないんだ。」

小春ちゃんはそういうところをちゃんと見ていて凄いな、と思いながらにこにこしていたら、気づくに決まっとるやないの〜、伊織ちゃん更に可愛くなっとるんやから〜、と笑顔で言われた。

小春ちゃんといると、なんだか私はいつもより笑ってる気がする。

小春ちゃんがさりげなく、沢山嬉しくなることを言ってくれるからっていうのもあるけど、一番の理由は・・・

「小春〜。・・・って、伊織!?」

ちょっと考え事をしていたら、小春ちゃんの後ろからユウジ君がやってきた。

「あ?伊織髪切ったんか。」

「うん、あんまり切ってないのによく気づいたね。気づいてくれたの小春ちゃんとユウジ君だけだよ。」

「べ、べ別に伊織やから気づいたわけとちゃうからな!」

「もう、ユウ君ったらまたそんな言い方して〜。」

小春ちゃんに、笑いながら別に気にしてないよ、と言うと、ユウジ君がなんだかムスッとした顔になった。

「なんで伊織は小春にばっか笑いかけるんや。」

「え、ユウジ君といる時も笑ってると思うけど。」

どういう意味だろう、と首を傾げると、ユウジ君はムスッとした顔のまま言った。

「小春に見せとる笑顔と全然ちゃう。小春の言い方が優しいからなんか?俺は小春と違って言い方がキツイから、せやから俺には小春に笑いかけるみたいな笑い方せんのか?」

あ、ちょうどさっき考えてたことだ、と思いながら私は口を開いた。

「小春ちゃんと一緒にいるときに沢山笑うのは、小春ちゃんが優しいからっていうのももちろんだけど、一番は、小春ちゃんがいつも笑ってくれてるからだよ。」

小春ちゃんはいつも私に笑いかけてくれる。

だから私も自然と笑顔になるんだろう。

「・・・。」

それを聞いて黙ってしまったユウジ君に、私はあわてて言った。

「あ、ごめん、別にユウジ君に無理に笑ってって言ってるわけじゃないからね。」

気にさせちゃったらごめんね、と笑うとユウジ君は私の手首を掴んだ。

「ん、何?」

「・・・髪型、似合おとる。ほなな!」

「、っ!」

ユウジ君がっ、いつも私には怒った顔かムスッとした顔しか見せないあのユウジ君が、私に向かって笑った。

しかも、似合ってるって。

小春ちゃんの笑顔を見たら、私も笑顔になる。

でも、ユウジ君の笑顔を見たら、なんだかドキドキして、笑顔になる余裕なんてなかった。

なんでユウジ君の笑顔にだけこんなにドキドキするんだろう、なんて考える余裕もなく、足早に去って行ったユウジ君の背中を見つめながら、私はただただ熱を持った自分の頬をおさえることしかできなかった。


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