long | ナノ


29


今日は伊織がタコ焼き焼いたことないっちゅーのを聞いて、小屋でタコパをすることになった。メンバーが二人だけでも、楽しかったらタコパやタコパ。家からタコ焼き機と卓上ガスコンロを持って、休日で人がほとんどいない学校を抜けて小屋に向かった。

小屋の扉を開けると中には誰もいなかった。今日は俺のが早かったなー。

窓際の椅子に腰掛け、テーブルに持ってきたコンロや材料を置くと、控えめなノックの後に扉が開いて、その向こうから伊織が顔を出した。

「白石君、もう来てたんだね。ごめんね、待たせちゃって。」

「いや、俺も今来たとこやでー。」

そう言って笑うと、伊織もホッとしたように笑った。





伊織との再開を果たしてから、もう約一ヶ月が経った。初めの一週間は、ちゃんとまた明日も会えるのか、お互い不安やったけど、3週間目に入ったくらいに、どうやらもうこの小屋に辿り着けなくなって、また会えんくなるなんてことはなさそうやな、と安心した。住人も気軽に大丈夫だよー、ちゅーとったしな。まだ目に見えて世界がつながるのを実感したりはしてへんけど、ゆっくりとやって住人も言っとったし、気長に気長にやな。



そんなことを考えていると、伊織が楽しそうに、ふふっ、と笑った。

「ん?どないしたん?」

「んーとね、白石君の私服姿を見るのとか、私よりも先に白石君が小屋で待ってるのとかって新鮮だなーって思って、なんかね、嬉しくなったの。」

伊織は、もう一ヶ月くらい経つのにね、と言って笑った。伊織が小屋から出られへんかった時は昼休みに会うことが多かったし、俺が先に小屋ん中で待ってるなんてことなかったもんな。

「俺が小屋の前で出かけとった伊織を待っとったんは何回かあったけどなー。」

「ああ、ドライフルーツ作りに出かけてた時だね。」

「おん、そん時、そん時。」

ドライフルーツと言われて、ふと、思い出した。

「そういえば、伊織一回おらんくなった時、小屋にドライフルーツ置いてっとったな。」

伊織がおらんくなったショックで食べられへんかった間に、全部住人に食べられてもたみたいやけど。

「あー、あれ、なんかわんちゃんが食べちゃったって謝ってたよね。白石君、食べなかったんだね。」

のほほん、と言う伊織の頭を軽くこずいた。

「あほ、伊織がおらんくてショックやのに食欲でるわけないやろー。」

伊織は薄情さんやなー、と言ってからかうと、伊織は、私だってショックだったもん、と拗ねたように口をとがらせた。アカン、かわええ。

「あの時ね、自分の部屋に戻ってたんだ。」

「せやったんやな。」

なんとなく戻っとったんやろなとは思っとったけど、おらんくなってからの一週間の話を伊織から直接聞くのは初めてやった。離れとった時のことをこうやって穏やかに話せるくらい伊織が落ち着いてきたんかなって思うと、なんだか安心した。

「戻ったら自分の部屋のベッドで、時間は全く進んでなくて、…もしかしたら、全部夢だったんじゃないかって、一旦は思いかけたんだ。でもね、白石君がくれたモフがベッドの上に落ちてて、だから白石君と会った事、夢じゃないんだって、思えたんだよ。」

伊織は、ショックで二晩泣き通しだったけどね、とちょっとおどけて笑った。

「二晩だけなん?俺なんて一週間へこみっぱなしやでー。」

同じく軽くおどけて返すと、伊織は、不思議そうに首を傾げた。

「え、私がいなかったのって、3日間だけだよね?」

「へっ、一週間は経っとったで。」

あれー、三日しか経ってないはずなんだけど、と首を傾げる伊織を見ながら考えた。

伊織がおらんくなってから、俺の世界では一週間経っとるけど、伊織の世界では三日しか経ってへん。こうして見ると、二つの世界の時間差は大きく見えるけど、伊織とまた会えるようになってからのこの約一ヶ月は、同じような時間の流れや。明日会おうなっちゅーたら、ちゃんとお互い同じ「明日」に会えるし。

「…もしかしたらな、」

ふと思い付いた答えが嬉しくて、頬が緩みそうになるのを感じながら続けた。

「時間の流れがくっついたんとちゃうかな?住人、二つの世界がゆっくり一つにくっつくっちゅーとったやん。まだあんまはっきり目に見えた変化はあらへんけど、目に見えへんこの時間の流れが、気づかんうちに一つになっとったんやで、きっと。」

伊織は俺の言葉を理解する為に、うーん、と少し考えてから、嬉しそうに破顔した。

「見えないとこが、ちゃんと変わってたんだね。」

「せやな。」

早く小屋の外でも会いたいけど、こうやって少しずつ変化を感じながら、小屋で伊織とのんびり過ごすのも悪くない。初めて感じた大きな変化が嬉しくて、そう思った。

「ほな、そろそろタコパしよか、タコパ。」

「タコパ?」

「タコ焼きパーティーやで、タコ焼きパーティー。」

「二人なのにパーティーなの?」

「二人でも、楽しかったらパーティーやねん。俺、伊織とおったらめっちゃ楽しいねん。」

そう言って笑うと、伊織は、私も白石君と一緒なの楽しいとはにかんだ。

楽しい時間を一緒にたくさん、たっくさん積み重ねよう。そしたらきっと、めっちゃゆっくりやっていう世界と世界がくっつく時間もあっちゅー間やから。


prev next

[ top ]