25
今朝はいきなり告げられた事実に戸惑ってしまったけど、伊織と俺の世界がずれとっても関係あらへん。全く違う世界でもなさそうやし、森の外に出てもまた会える方法が、きっとあるはずや。
昼休みになり、いつものようにおにぎりを持って森に向かった。
小屋を出ても会う方法一緒に探そうと言ったら、今朝の泣きそうな笑顔は、少しはなくなるやろか。伊織はあんな寂しい笑顔より、いつもの笑顔のほうが似合っとる。
小屋の扉をいつものようにノックして、伊織が出迎えてくれるのを待った。
だが、いつまでたってもその扉は開かなかった。
なにかおかしい、と感じながらノブに手をかけると、扉には珍しく鍵がかかっていなかった。
伊織、どんな近くに出かけるときでも鍵、必ずかけてたのに。
嫌な予感を振り払いながら扉を開け中に入ると、家具の位置とかが変わっているわけではないのに、小屋の中の空気は、昨日とはまるで違っていた。
「…ああ、そっか、帰ったんやな。」
思わず口から出た言葉は、伊織のいない小屋の中で、思ったより大きく響いて、伊織がいないという事実を余計に突き付けられた気がした。
もっといっぱい、話したいこと、連れて行きたいとこ、一緒にしたいことがあったのに。
力が抜けて、その場にへたりこんだ。
ふと窓辺のテーブルを見ると、いつだったか伊織が俺にお礼だと言って作ってくれたドライフルーツがあった。
もしかして、あんとき俺がめっちゃ喜んだから、また作ってくれてたんやろか。
どんなものをもらうよりも、伊織がまた俺の前で笑ってくれるほうが、よっぽど嬉しいんに。
なんで、なんで、伊織はここにおらへんねん。
きっと伊織は、元の居場所に戻ったのだろう。本当なら喜ぶべきことだ。伊織は、ずっと帰りたいって言っていたのだから。
せやけど、…
やりきれない思いをどうしていいかわからず、涙すら、出てこなかった。
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