long | ナノ


23


気がつくとポカポカと暖かい場所に寝転んでいた。どうしてこんな場所にいるんだろうと少し考えてから、空に太陽と月が両方あることに気がついて、ああ、これは夢か、と納得した。

気持ちのいい場所。夢の中でも寝てもいいのかな。夢の中で寝たら、その中でもまた夢を見るんだろうか。…うーん、自分でも何を言ってるのかよくわからない。たぶんあんまり頭働いてないんだろうな。

暖かな空気に誘われゆっくり目を閉じると、左の手に、何かふわふわなものがあたった。

「わあ、わんちゃんだー。可愛い。」

いつの間にか私の隣可愛い犬がいて、私は上体を起こして犬のふわふわとした毛に触れた。その子は嫌がるわけでもなく、嬉しそうにふさふさな尻尾を振っていた。可愛い。いい夢だなー。起きた時には忘れちゃってる夢とかもあるけど、この夢は覚えておきたいなー、なんて思いながら幸せな感触を堪能していると、犬が、もう満足した?話してもいい?と聞いてきた。

「あ、うん、大丈夫。ありがとう、わんちゃん。」

犬が言葉を話したということに少し驚いてよく見ると、私の隣にいたのはただの犬ではなく、私に小屋の留守番を任せた、あの住人だった。…姿、人じゃないのに住人って言っていいのかな?まあ、いいか、なんてどうでもいいことを考えていると、わんちゃんは嬉しそうにしっぽを振りながら話しだした。

「結構長い間空けちゃってごめんね。でも、おかげですっごく楽しい旅だったよ。」

「そっか、どこ行って来たの?」

「長崎行ってきたんだー。美味しいものたくさん食べて来たよ。ちゃんぽんとか、皿うどんとか、中華とか。坂が多いけど、歩いてて楽しい街だね。とにかく食べ物が美味しくて最高!」

「へえ、よかったね。」

「うん!」

嬉しそうに頷いたわんちゃんが可愛くて、笑みがこぼれた。他に何を見て来たの?と聞こうとして、思わず欠伸をしてしまった。

「あれ、眠いの?」

「ん、なんか眠くなってきた、かも。」

「じゃあそろそろ起きる時間なんだね。もっといろいろ話したかったんだけど、僕ちょっと来るの遅かったみたい。」

いろいろ話したかったって、旅の話かな、なんて思いながらまた欠伸を一つした。なんか頭もぼやけて来たし、本格的に眠くなってきたかも。

わんちゃんは眠たげな私の腕に優しくコンと頭突きした。

「僕、そろそろ小屋に戻るから、君ももうすぐ元の居場所に帰すよ。じゃあ、またね。」

え、どういうこと、と聞きたかったのに、眠気に抗えず意識を手放してしまった。





パッと目が覚めた。自分の周りを見渡すと、まだいつもの小屋の中で、ホッと息をついた。まるで自分のものかのように慣れてきたこのベッドで目を覚ますのも、あと僅か、なんだろうか。

寝ぼけ頭をしゃっきりさせる為に顔を洗っていると、いつもより控えめなノックの音が小屋の中に響いた。

「朝はよ来てもたから寄ってんけど、伊織、まだ寝とる?」

「大丈夫。ちょっと待ってね。」

急いで着替えながら返事をすると、扉の向こうから、寝てんちゃうかってちょっと思っててんけどよかったわ、と嬉しそうな声が聞こえた。

白石君は、住人が帰って来さえすれば、一緒にいろんな場所に行けると、思ってる。私だって、できるなら、そうしたいけど、

…伝えなきゃ。全部、ちゃんと。


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