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「とりあえず、中覗いてみよか。」
「そう、だね。」
何か危ないものがあるかもしらんから、伊織を後ろに下がらせて一人で扉の前に立った。
まあ、今まで緊張しては脱力の繰り返しやったから(伊織に住人のこと聞いた時とか、日記の内容とか)、今回もそんな危ないことはない気ぃするけど…多分。
ふう、と伊織に聞こえないくらい小さく息を吐いて気持ちを落ち着け、扉をそっと開いた。
「ん?…うわ!わあっ!」
「え、なに、どうしたの、白石君!」
扉の奥には、いろとりどり、世界各国の毒草が育てられていた。図鑑でしか見たことないような奴がいっぱいや!しかも、胞子とかで空気から毒が伝わるものとかはちゃんとガラスケースで覆ってあるし。
「ちょっと伊織も来てみ!すごいで、この部屋。」
一旦扉を閉めて、少し後ろにいた伊織を呼んだ。
戸惑う様子の伊織に、大丈夫やから開けてみーと笑うと、伊織は恐る恐る部屋の扉をあけた。
「う、わ!モフモフ!」
「、へ?」
毒草を見た反応にしてはちょっと不思議やなーと思いながら、伊織の後ろからまた部屋の中を覗くと、中にはモフモフした動物たちがくつろいでいた。
「え、さっきは毒草やってんけど、」
「え?」
一旦扉を閉めてもろて、もう一回俺が扉を開いた。毒草、モフモフと来て、次はなんや。
「…テニスコートや。」
さっきまでは普通の部屋だったはずが、室内テニスコートになっていた。コート脇のベンチには、テニスボール、ラケット、シューズ、ウェアまで全部揃えてある。
嬉しそうに呟いた俺を見て、テニス好きなんだね、と伊織は笑っていた。
「もしかして、扉を開けた人が好きなものでいっぱいになるのかな、この部屋。」
「かもな。伊織、もう一回開けてみ。」
「うん。」
これでまた伊織が好きなもんが出てきたら、伊織が言った通りの部屋なんやろな。なんでこんな部屋があるかはわけわからんけど。
「わあ、ケーキ、タルト、ティラミス!美味しそうだね。」
「やっぱり開けた人の好きなものみたいやな。」
「うん、おもしろい部屋だね。」
一体何の為にこんな部屋があるのかとかは考えず、ただただ楽しそうにしている伊織が微笑ましくて思わず笑みがこぼれた。
そんな俺の様子には気づかず、伊織は、次は何が出るかなー、と楽しそうに扉を閉めて、また開けた。
「次は何やった?ん、おにぎりやん。」
さっき甘い物が出てきた時はティラミス単体ではなく、タルトとかケーキとかクッキーとかいろんな種類の甘い物が出てきてたんに、今回はおにぎりだけで、他のおかずとかはなかった。そんなおにぎり好きやってんや。
「伊織、おにぎり単体でいっぱいになるくらいおにぎり好きやったんやね。」
笑いながらそう聞くと、伊織はちょっと目を泳がせた。
「いや、あの、まあ好きだけど、なんていうか、」
「ん?」
おにぎり好きとか別に恥ずかしいことでもないやろにどないしたんかなー、なんて思って首を傾げると、伊織が少しはにかみながら言った。
「白石君が持って来てくれるから、前よりもっと好きになったんだ。」
さよかーと平静を装って言いながらも嬉しさで頬が緩んでしまって、それを隠す為にまた扉を開くと、その向こうにはドライフルーツが広がっていた。
「あれ、ドライフルーツだ。白石君ドライフルーツ好きだったんだ。」
「まあ、なんちゅーか、」
「ん?」
不思議そうに首を傾げる伊織を見て、ちょっとはにかんだ。
「伊織が作ってくれたから、めっちゃめっちゃ好きになってん。」
そっかー、と言った伊織は、嬉しさと恥ずかしさが混ざったような顔をしていた。
「はよ小屋以外の場所も一緒に行きたいな。甘い物好きなんやったら、美味しいケーキ屋さん一緒行こうや。」
「…、そうだね。」
一瞬、伊織の顔が辛そうに見えたけど、それを尋ねる前に、伊織はまたいつもの表情に戻って、ティラミスとモンブランは外せないね、と笑っていた。見間違いやったんかな?
「苺のショートとクレームブリュレもいいなー。あー、でもいっぺんにこんなには無理か。」
「いくつか一緒に頼んで半分コしたらええやん。」
「それ、すっごく楽しそう!」
そう笑った伊織は本当に嬉しそうで、早くここから出したりたいなーと思った。一緒行きたいとこ、たくさんあるし。
住人、ほんまにはよ帰って来ーへんかな。
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