step2:優しくする
「小春ちゃ〜ん。」
小春ちゃんを見つけて声をかけると、小春ちゃんの影からユウジ君が出てきた。
「あ、ユウジ君。」
「なんや伊織!俺はオマケか!しばくど!」
「あら〜、伊織ちゃんや〜ん。どないしたん、こんな大荷物持って。」
ユウジ君に、小春ちゃんの影で見えなかったんだごめんね、と言っていると、小春ちゃんが私が両手に下げている紙袋に気づいた。
「先生にね、さっきの時間使った資料を資料室に戻しておいてって頼まれたんだ。今日、私日直だから。」
「まあ、重いやろ〜?一個貸し〜。」
小春ちゃんは言うと同時に私の紙袋を一つ持ってくれた。
しかも、小春ちゃんが持ってくれた方は、世界地図とか入っていてすっごく重い方だった。
多分重い方だってわかってそっちを持ってくれたんだろうな。
「ありがとう。本当、小春ちゃんは優しいね。」
小春ちゃんに気にせんでええんよ〜と言われ、歩きだそうとしたら、ユウジ君が大きな声をだした。
「こ、小春が優しいからって甘えてんちゃうぞ!」
「え、えっとごめんなさい。」
そうだね、日直の仕事だもんね、と思って小春ちゃんにお礼を言ってから両方持って行こうとしたら、またユウジ君に大きな声で呼びとめられた。
「なんで勝手に行こうとしてんねん!」
「え、えっと。」
「貸せ!」
え、あれ?
何故かユウジ君に両方の紙袋を取られた。
「どこの資料室や!?はよ行くど!伊織、案内せい!」
「あ、うん。持ってくれてありがとう。」
小春ちゃんにまたね、と挨拶してから早足に歩きだしたユウジ君を追いかけた。
私が隣に並ぶと、ユウジ君は足を少し遅めてくれた。
「伊織はなっ、小春が優しいからって、小春ばっか頼りすぎなんじゃボケェ!」
「ごめんね、つい小春ちゃん優しいから頼っちゃって。」
気をつけるねー、と笑うと、ユウジ君は顔を真っ赤にして怒った。
「お、俺ももっと頼らんかい!俺かて優しいんやからな!わかったら今度から俺を頼れ!ええか!?」
「う、うん、わかった。」
あんまり人に頼らないように頑張るって言おうとしたのに、あまりの勢いに思わず頷いてしまった。
でも私が頷いた後に、それでええねん、って言いながら背けたユウジ君の横顔が、なんだかちょっと優しかったから、訂正するのがもったいなくなって、そのままにしておいた。
いつも真っ赤なしかめっつらばっか見てたから、ユウジ君の優しい顔はなんだか新鮮だった。
prev next