long | ナノ


3日目


朝、目が覚めたら目の前に侑士の胸があった。昨日お昼寝した時と同じ体勢で眠ってたみたい。(腕枕&がっちりホールド!)

侑士の寝顔見てみたいなと少し上を見ると、侑士がゆっくりと目を開けた。いまさらだけど、眼鏡かけてない侑士って、なんか新鮮。

「ん、…伊織、起きたん?おはようさん。」

「おはよう、侑士。」

侑士は、まだ寝ぼけた目で微笑んで、私の頭を撫でた。

「今日も部活ある?」

昨日も部活だったし、日曜も部活かな、と思って尋ねると、侑士は首を軽く振った。

「んーん、今日はお休み。」

「じゃあ、一日一緒?」

「ん、一日ずっと一緒やね。」

嬉しくて、ふふ、と笑うと、侑士は笑いながら、とりあえず朝ごはんにしよか、とまた頭を撫でた。





朝ご飯作るから待っとってと言う侑士に、私も作りたいなーと言うと、ほな一緒に作ろかーと笑顔で言われた。

「朝ご飯、和食でええ?」

「うん!昨日のお味噌汁とっても美味しかった。」

そらよかったわ、と笑って水にいりこを入れる侑士の隣で、卵を混ぜる。並んで作るのって、なんか楽しい!

「何作ってくれてるん?」

「卵焼き。醤油味で大根おろしのっけるやつ!」

言いながら、卵料理くらいしかできない子やな、なんて呆れられてないかな、と少し不安になったけど、侑士は、美味しそうやね、と笑ってくれたからホッとした。

すりおろす為に大根の皮をむいていたら、ちょっともらってええかって言われて、3分の1くらい渡した。椎茸も切ってるから、今日は大根と椎茸のお味噌汁みたい。楽しみー!

出来上がった朝ご飯は、きゅうりの塩もみと、大根と椎茸のお味噌汁と、卵焼きの大根おろしのせ。

なんか、侑士の家に来てから、私すっごく健康的な食生活をしてる気がする。家だったら、めんどうな時はシリアルと牛乳だもんなー。

「卵焼きめっちゃ美味しいで、伊織。」

「本当?ありがとう。お味噌汁もきゅうりもとっても美味しいよ!」

毎日お味噌汁作って下さいってプロポーズ、前に本で読んだけど、侑士だったら言われる方が似合っちゃうなー、なんて思って、とっても美味しいお味噌汁を見て、ふふっと笑った。

「今日はなにしよかー?なんかしたいことある?」

「うーん、どこか外、一緒に歩きたいなー。」

「ほな、ちょっとくつろいだら一緒に昼ご飯の材料買いに行こか。」

「うん!」



*



家を出ると、はぐれたらアカンからな、と侑士に手をつながれた。こんな見通しがよくて、人通りもまばらなところではぐれたりなんてしないと思うんだけど、侑士の手があったかくて嬉しかったから、そのままにしておいた。


「伊織、キャベツ安いで。ロールキャベツにしよか、お昼。」

「うん!」

コンソメとトマトどっちがええ?と聞いてきた侑士に、トマトがいいな、と答えて、今日のお昼はトマトベースのロールキャベツに決定した。侑士と手を繋いで家路につきながら、なんだかこうやってお昼のメニュー相談するのって恋人みたいだな、とちょっと楽しくなった。…でも、それも今日でおしまいか。

「今日で侑士の猫終わりか。寂しいな。」

思わず口に出してしまうと、侑士は部屋の扉を開いて私を中へ導きながら、不思議そうに首を傾げた。

「なんで?」

なんで、だなんて、その疑問こそ、なんで、だよ。侑士の様子にちょっとショックを受けつつ、私は口を開いた。

「だってさ、明日からはまたクラスメートで、だから侑士に頭撫でてもらえないし、ぎゅーっもしてもらえないし、」

侑士は、寂しくないのかな、とへこんでいると、侑士が不思議そうな声を出した。

「え、アカンの?」

「え、何が?」

今度は私が首をかしげた。何が「アカンの」なんだろう。

侑士は戸惑う私の頬にゆっくり手を添えて、微笑んだ。

「伊織が可愛くて可愛くてしゃーないねん。猫でも、クラスメートでも、友達でも、恋人でも、伊織やったらなんでも。」

「ゆ、侑士からしたら猫もクラスメートも恋人も一緒なの?」

「猫とクラスメートと恋人が一緒なんやなくてな、伊織が特別なだけやねん。」

私だったらなんでもいい、という侑士の発言に照れて俯くと、優しく添えられた侑士の手によって上を向かされた。侑士と目があって、どうしたらいいかわからなくて戸惑っていると、侑士は優しく微笑んで続けた。

「せやけどな、いつでもどこでも伊織んこと甘えさせたりたいし、可愛がりたいから、やっぱ恋人がええな。」

伊織はどない思う、なんて聞いてくる侑士の胸に、タンッとおでこを押し付けた。顔なんて、恥ずかしくて見せられない。

私も、恋人がいい、です。

小さな小さな声だったけど、侑士にはちゃんと届いていたみたいで、侑士は、私をぎゅーっと抱きしめながら、嬉しそうに、おおきに、と笑った。

不思議な三日間だったけど、どうやら三日間だけの夢では終わらないみたい。

嬉しくて笑うと、幸せそうな侑士が頭を撫でてくれて、もっと幸せな気持ちになった。


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