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白石君には、たくさんお世話になっている。毎日のおにぎりとか、この間ピクニックに連れ出してくれたことととか、森から出る方法をお友達と探してくれていることとか、…八つ当たりして取り乱して、目の前で倒れたこともあったな。
とにかく、そんな白石君に何かお礼がしたいんだ。
「でも私は森から出られないし、どうしたらいいと思う、モフ。」
手の中のモフに聞いてみても、当たり前だけど、モフは黙ってるだけだった。
ふう、と息を一つはいて、ふと窓の外を見ると、果物の木が目に入った。そっか、果物だったらたくさんあるんだっけ。
オーブンがあるわけじゃないから焼き菓子は作れないな、と少し悩んでから、そうだ、と思い付いた。
「ドライフルーツなら作れるよね、モフ。」
白石君のお礼になりそうなものを思い付いたのが嬉しくて、モフをモフモフした。やっぱり手触りいいなー、モフ。
小屋の中にあったナイフとザル二つを借りて、小屋を出た。小屋の近くで干してたらドライフルーツになるまでに白石君に見つかっちゃうよね、と思って、この間白石君とピクニックした場所あたりで干すことにした。泉で洗った果物を薄くスライスしてザルにならべ、もう一つのザルをふた代わりにかぶせる。それを日光のよくあたる場所にそっと置いた。うん、なかなか上出来かも。
日も高くなって来たし、そろそろ白石君が来る頃かな。早く戻ろう。毎日様子見に来るね、美味しいドライフルーツになってね、とザルの中の果物に言ってから、小屋に向かった。
*
最近、小屋に行っても伊織がいないことがある。何か息抜きでも見つけたんやろか。嬉しい反面、ちょっと寂しい。今までは俺だけを待ってくれとったんにな。
初めて伊織が小屋にいなかったのは、サンドイッチ持ってピクニックした次の日やった。ごめんね、待たせちゃった、と謝る伊織に、そんな待ってへんから大丈夫やで、と笑うと、伊織も安心したように笑ってくれた。
ピクニックと言えば、お昼寝から起きた伊織に、伊織って呼びかけたら、えっ、あれ?え、ってめっちゃびっくりしてて可愛かったな。伊織で呼んでええか聞いたら、ん、って返事されたから呼ぶことにしてんって笑うと、寝言とか恥ずかしいから聞かないでよー、と頭をかかえていた。恥ずかしそうに焦る伊織が新鮮で、嬉しかった。
伊織も蔵って呼んでやーって言ったら、善処します、って恥ずかしそうに言われてんけど、いつ呼んでくれるんやろ。あれからもう何日も経っとるけど、全然呼んでくれへんな。そんなことを考えながら小屋に向かっていると、小屋から出ていく伊織を見つけた。
声をかけたけど、遠かったから気づかなかったみたいで、伊織は小屋に鍵をしてから、どこかに向かって歩いて行った。
あ、モフもつれとる。ほんま好かれとるな、ちょっと妬くわ。まあ、俺が渡したもんをあんなに気に入ってくれてんのは嬉しいけど。
どこ行くんやろか、と気になって後を追うと、こないだピクニックした場所やった。
日なたでしゃがんで何かをしている伊織に近づくと、伊織は足音に気づいてびっくりしたように振り返った。
「えっと、声かけても気ぃつかんかったみたいやから追って来てもてんけど、なんかアカンかったかな?」
首の後ろをかきながら、すまんな、と謝ると、伊織はブンブンと首を横に振った。
「だ、いじょうぶ、ちょっとびっくりしたけど、ちょうどできたから。」
できたって何がやろ、と首をかしげる俺に、伊織が何かを差し出した。
ザル…の中にドライフルーツ?伊織が作ったんやろか、すごいな。
「これ、食べて。いつも、ありがとう。」
うわ、めっちゃ嬉しい。これ、俺のために作ってくれたんや。
思わずゆるんだ口元を片手でかくす。
「おおきに、ほな一緒食べよか。」
俺が笑ってドライフルーツに手をのばすと、伊織はやっと安心したように笑った。
伊織が笑ってくれるだけで、お礼なんてほんまにいらんのやけど、それでも伊織が俺のために作ってくれたドライフルーツは、めっちゃめっちゃ美味しかった。
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