long | ナノ


16


窓の外はいい天気。
暖かそうな陽射しに照らされて、果物もキラキラしてる。

まあ、だからって、外に出たりはしないのだけど。

そう考えて、小さくため息を一つついたとほぼ同時に、ノックの音と優しい声音が部屋に響いた。白石君だ。

もうそんな時間だったのか、と思いながら扉を開けると、白石君がにこやかにバスケットをかかげていた。

「神崎、めっちゃええ天気やで。今日は外で食べようや。」

でも、森から出られないよ?と思って首を傾げると、白石君は、森でピクニックや、と笑った。

「サンドイッチ作ってきてんで。ピクニックっぽいやろ。」

森でサンドイッチ、確かに、なんかピクニックみたい。そう思ってちょっと笑うと、白石君は嬉しそうに笑って、私に手を差し出した。手を繋ごうって意味かな、と思って、おずおずと白石君の手の上に手を置くと、白石君は、ん、と満足げに笑って私の手を握り返した。よかった、あってたみたい。

白石君の手に導かれながら歩く道は、一人で歩く森とは違って、なんだかとても安心する。白石君は、大きな木を見つけると、その近くにバスケットを置いて振り返った。

「お、ここらへんとかよさげやな。ここにしよか。」

頷いて、白石君の隣に腰掛けた。木に遮られるおかげで直接陽射しはあたらないし、大きな木だから二人とも木に背中をもたれかけられるし、うん、いい場所。

「サンドイッチ、卵とハムチーズとポテトサラダのがあるから、好きなん食べてな。」

「ありがとう、卵のもらうね。」

白石君が笑って差し出してくれた卵サンドはとってもおいしかった。ゆで卵とマヨ以外にからしを入れる人もいるけど、白石君は入れない人だったみたい。よかった。

「おいしい。白石君はからし入れないんだね。」

「シンプル イズ ベストやからな。」

そう言って笑う白石君がなんだかとても誇らしげだったから、つい少し笑ってしまった。

「ふふっ、でもポテトサラダをはさむサンドイッチって、結構こってるよね。これもシンプルなの?」

人参や胡瓜が入って彩り綺麗で美味しそうなポテトサラダのサンドイッチを示すと、白石君は、痛いとこつかれてもたわー、と大袈裟に胸を押さえながら、笑顔で親指を立てた。

「ナイスツッコミやで、神崎。」

「ツッコミ、なのかなー、今の。」

笑いいながらそう言うと、白石君はええツッコミやったで、と頷いた。

「そういえば、白石君って、関西弁、だよね?大阪なの?」

「おん、大阪の四天宝寺や。」

やっぱり大阪なんだ、と納得してから、聞いたことのない地名に首を傾げた。

「ん?四天王寺?」

「いや、四天宝寺。」

私が聞いたことないなと考えていると、白石君は木の枝を拾って、地面に「四天宝寺」と書いてくれた。宝?王じゃなくて?

「うん、そっか、四天宝寺か。」

「おん、せやで。」

いろいろ思うことはあったけど、今は白石君と一緒に木の根に座って、サンドイッチを食べて、とてものんびりとした時間なんだ。わざわざ難しいことを考えるのはやめにしよう。

木に背中を預けて深呼吸をした。それを見て白石君も、森言うたらやっぱ深呼吸やなーって笑いながら深呼吸をしていた。なんだか、とても、ホッとする。

実は森から出られないのが怖くて、出歩くといったら、小屋の周りの木に果物を取りに行くか、近くの泉に湯浴みに行くくらいしかなかったから、最近少し息苦しさを感じていたんだ。

白石君はもしかしたら、それに気づいてくれていたのかもしれない。それで今日、こうやって外に連れ出してくれたのかな。

「ありがとう、白石君。」

白石君は何に対する礼かは聞かないでいてくれて、また来ような、と優しい顔で笑ってくれた。


*


サンドイッチを食べ終わって、木もれ日が気持ちええなー、なんて話していたら、神崎がふあぁ、と小さくあくびをした。

「眠いんやったら寝てええで。」

「うーん、」

神崎は、ちょっと迷っとったけど、ええからええから、と言うと、木に背中を預けたまま目を閉じた。

「じゃあ、少しだけ、」

「おん、おやすみ。」

「おやすみ、なさい。」

暖かい陽射しのおかげか、神崎はすぐに眠りについたみたいやった。隣で寝てくれるなんて、ほんま、最初に比べたらびっくりするくらい気ぃ許してくれとるよなー。前も寝顔見たことあるけど、あれは寝るっていうより張り詰めとった緊張の糸が切れて倒れるって感じやったし。

自分の隣で安心してくれているのが嬉しくて、髪を優しく撫でると、くすぐったかったのか、神崎は身じろぎして少し笑った。寝とっても笑うんやな。なんかかわええ。

「伊織。」

どうせ寝とるから聞いてへんやろなーと思いながら、起きとる時は呼ばれへん下の名前を呼んだ。

「んー。」

「、っ!…なんや、寝とるやんけ。」

返事のように、んー、と返され、びっくりしつつ神崎を見ると、目をつむったまま気持ち良さそうに寝ていて、ふう、と少し安心した。

「もう、びっくりしたやん。」

「んー。」

…神崎、寝た時に返事するん癖なんやろか?おもろい子やな。

「なあ、伊織って呼んでもええ?」

さっきと同じように、んー、って言うんかなーなんて思いながら見ていると、神崎はなんだか嬉しそうに、ふふ、と笑いながら、ん、と言った。

アカンなんやねん、かわい…、やなくて!こんなちゃんと反応するってことは起きてんちゃう?

せやけど神崎は、まだ目をつむったままやった。

寝とる子相手にドキドキしとるとか、なんか、恥ず。

仕返しに、起きたら絶対伊織って呼んだろ。…まあ、ほんまはただ俺が呼びたいだけやけど。

ちゃんと伊織に許可とったで、とか言うたらどんな反応するんやろなー、なんて思って笑っていると、伊織も笑い声につられたように小さく笑った。

かわええ。ほんま、よく笑ってくれるようになってよかった。

「また一緒にいろんなとこ行こうな、伊織。森出たら、連れてきたいとこたくさんあんねん。」

髪を撫でながらそう言うと、寝たままの伊織は、さっきと同じく嬉しそうに、んー、と笑った。


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