15
モフ(白石君にもらったぬいぐるみに、名前をつけたことは白石君には内緒だ)をもらってから、一人の時間も少し寂しくなくなった。
もらった時は、私、すっごく子ども扱いされてる、と少し微妙な気持ちになったものの、やっぱり一人は不安だから。
「モフ、白石君、まだ来ないかな。学校忙しいんだよね。早く来たらいいのにね。」
モフモフしながらモフに話していると、扉に何かがぶつかった音がした。
びっくりしながら恐る恐る扉をあけると、頭をおさえてしゃがみ込んでいる白石君がいた。なにしてるんだろう、と不思議に思っていると、白石君がはにかみながら口を開いた。
「えっと、気に入ってくれたみたいでよかったわ。モフって呼んでんねんな。」
あれ、なんで、モフって名前で呼んでるの知ってるんだろう、…って、うわぁ、今の、聞かれてたんだっ!恥ずかしい。
モフを顔の前に持ってきて、恥ずかしさで少し熱い顔を隠した。
「モフだけやなくて、俺にももっと話してくれたらええのに。」
そう言って優しく笑う白石君になんていえばいいかわからなくて黙っていると、白石君は私の手の中のモフをピンっと指で弾いた。
「ええなー、自分は、めっちゃ話し掛けてもろて。モコモコ、モフモフしとる役得やな。俺ももっとモフモフになったろかな。」
モフモフな白石君なんて想像がつかなくて、つい笑ってしまうと、白石君は驚いたように私の顔を見た。
どうしたの?と首を傾げると、白石君はあわてたように首を横に振った。
「(初めて、笑った、…よかった)…あ、いや、なんでもないで、うん、なんでもない、なんでもない。」
なんでもない、と繰り返しながらも、白石君の顔はなんだか嬉しそうだった。いつもは穏やかに綺麗に笑うけど、こういうはにかんだような笑い方もするんだ。なんでかはわからないけど、ちょっと嬉しくなった。
「ほら、ご飯食べる時間なくなってまうで。食べよやー。今日は焼きおにぎり作ってきてん。」
「美味しそうだね。ありがとう。」
「おん、たんと食べやー。」
おにぎりを食べている間も、白石君はずっと嬉しそうに笑っていて、私もちょっと気持ちがあったかくなった。
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