step1:名前を呼んでもらう
「ユウく〜ん。」
「小春ぅ〜。」
本当、この二人は仲良しだな。
「小春ちゃん、先生からお届けもの〜。」
「おい、神崎!誰の許しを得て小春に話しかけとんじゃ!死なすど!」
毎度のことながら、一氏君は元気だな。
「もう、ユウ君!私の友達になんてこと言うの!ごめんな、伊織ちゃん。」
小春ちゃんは可愛く、めっ、と一氏君を叱ってから私に謝ってくれた。
小春ちゃんは本当に優しいな。
「ううん、私こそ、話の途中で邪魔してごめんね。」
「もう、そんなこと気にせんでええんよ。伊織ちゃんったら水くさいわね〜。」
「ふふっ、小春ちゃんは優しいね。」
私が笑うと、一氏君がまた怒ったように、大きな声を出した。
「あ、あんなー!小春が優しいんはみんなに対してやからな!神崎が特別なわけちゃうぞ!勘違いすんなよ!」
「うん、そうだね。小春ちゃんはみんなに優しいよね。」
「もう、伊織ちゃんったら照れるやないの〜。ほんま伊織ちゃんはかわええな〜。」
小春ちゃんが私の両手を握ってぶんぶん振りながら言うと、一氏君がその手を振りほどいた。
「気、気安く小春に触んなやボケェ!」
小春ちゃんから触って来た場合もいけないのかなー、と一氏君を見ると、一氏君はいきなり私の腕を掴んで早足で歩きだした。
どうしよう、ついにしめられるかも。
足がもつれそうになりながらも、なんとか辿りついた場所は校舎裏だった。
一氏君の顔をそっと覗くと、顔を真っ赤にして怒っていた。
「神崎は、小春が好きなんか?」
「え?うん、好きだよ、優しいし。」
まあ、お互い友達としか思ってないけどね。と言う前に、一氏君が口早にまくしたてた。
「お、俺かて優しくしよう思たら優しくできんねん!優しいから小春が好きなんやったら、俺も優しくするから俺のことも好きにならんかい!」
「・・・。」
びっくりして固まっていると、一氏君が睨みながらまた大きな声を出した。
「な、なんか文句あるんか!?」
「えっと、ない、と思う。」
「それとな!なんで小春とは名前で呼び合って、俺とは苗字呼びやねん!名前で呼ばんかい!」
「ユ、ユウジ君?」
これでいいんだろうか、とユウジ君の顔を伺うと、ユウジ君は口元に手をあてて顔を背けた。
「そ、それでええねん!今度から苗字で呼んだらしばくからな、伊織!」
それだけ言うとユウジ君は凄い速さで走り去って行った。
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