14
泣いた神崎を大丈夫、大丈夫と言ってあやしたたあの日から、神崎、ちょっと変わった気がする。
「神崎、おにぎり、鮭とおかかと梅と明太子やで。どれにする?」
「ありがとう。おかかがいいな。」
「かつぶしが好きなん?」
「鰹節が好きなのもあるけど、醤油が好きなんだ。」
「醤油うまいよな。ほな醤油の焼おにぎりとかも好きなん?」
「うん、好き。ちょっと焦げたとことかも、美味しいよね。白石君は、何が好き?」
「うーん、せやな、塩だけで握ったやつとかも好きやで。」
「うん、わかる、シンプルだけど、美味しいよね。」
びくつかんと普通に話してくれるんが嬉しくて、自然と笑顔になるのを感じた。
前はどっちがいいか聞くと、困ったように眉を下げていたのに、今はなんでそっちが好きかっていう会話までできる。
うん、進歩や。確実に進歩しとる。
まあ、だからって、笑顔を向けてくれたりするわけではないんやけどな。
どうしたら笑ってくれるんやろか、なんて考えていたら、もうすぐ授業が始まる時間だった。
「あ、もう帰らな。」
ほなな、と言って神崎の頭をポンポンと撫でた。
扉に手をかけたところで、背中あたりに何か違和感を感じて振り返ると、神崎が俺の服のすそを掴んでいた。
これは、引き止められとるって思ってもええんやろか、と思って神崎の顔をうかがうと、神崎はすごく戸惑った顔をしていた。
無意識で引き止めてしまったんやろか。
アカン、神崎が寂しがってこないな行動をしたってわかっとんのに、どないしよ、なんか嬉しい。
「神崎。」
「えっと、違うの、うん。またね、」
すそを離すように言われると思ったのか、神崎はパッとすばやく服から手を離して俯いた。
「大丈夫やで。困ってへんから。」
そう言って笑うと、神崎はちょっとほっとしたような顔になった。うーん、せやけど、どないしよ。こんな状態の神崎を一人置いて帰りたくはないな。
なんかないかなとかばんの中を探ると、小さなモフモフしたぬいぐるみが出てきた。
あ、そういえば、こないだ謙也とゲーセン行った時に取ったっけ。神崎に渡す機会なくて入れっぱやったみたいや。
「ほら、これモフモフとき。ちょっとは寂しさまぎれるで。」
なんの動物なんかよくわからへん丸いモフモフしたそれを差し出すと、神崎はちょっと戸惑った後に、おずおずと手をのばして受けとった。
「…、モフモフ。」
そう小さくもらした口元は、さっきまでより柔らかくなった気がして、なんだか安心した。
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