11
夢を、見た。こわい夢を。
起きたらどんな夢だったのかは忘れてしまったけど、こわかったという感情だけが消えずに残っていた。
最近は、この状況をだんだんと受け入れてきているつもりだった、あの男の子だって森から出る方法探してくれてるって言ってるし、きっと大丈夫だって、
…でも、本当に?
本当に、信じていいんだろうか。
いやだ、もうこわい。
こわい夢を見たせいで、神経質になって嫌な考えが胸の中を渦巻いている時、ノック音が響いた。ここを訪ねて来る人なんて、一人しかいない。きっとあの男の子だろう。
「神崎?」
私がなかなか扉を開けないのを不思議に思ったらしく、男の子は心配するような声で私の名前を呼んだ。
その声は本当に優しげで、私は少しフラフラする足で扉まで向かい、鍵を外し、扉を開けた。
「あ、よかった、開いたわー、…って、え、どないしたん!」
男の子は、扉が開いたことを喜んだのもつかの間、焦った表情になった。
男の子がに手を伸ばした私の頬には、水がつたう感触があった。
感情をうまく制御できなくて、泣いてしまっていたみたいだ。泣き止もうと思っても、涙は次から次に流れてとまらなかった。
「…こわい。」
涙と一緒に、今まで胸の内に留めていた感情が溢れ出てきた。
「全部、こわい。なんで私、ここから出られないの?なんでここにはあなたしか来ないの?なんであなたはここへ自由に出入りできるの?あなたは誰なの?…あなたがっ、あなたが私をここに閉じ込めたの?」
ああ、こんなこと、言いたくなんかないのに。
あの優しさが、笑顔が、全部嘘だなんて思いたくない。
だけど、全部信じられるほど、私は強くない。
もう、この人はきっとここに来なくなる。こんなによくしてもらっておいて、こんな酷いことを言ったんだから、当たり前だ。
泣きながらそんなことを思っていたら、ふいに優しく、なだめるように頭を撫でられた。
「怖かったな。大丈夫やで。大丈夫。」
大丈夫、と繰り返すその人の声に、怒りの色はなかった。
なんで、怒って、ないの?
その疑問を声にのせることができず、ただただ戸惑いながら涙を流していると、男の子は私の背中に腕を回して、あやすように、ぽん、ぽん、と優しく叩いた。
「大丈夫やで。俺は神崎が怖がること、いっさいせぇへん。この森から出る方法も、きっと見つけたる。」
力が抜けて倒れそうになった私を、男の子は力強く抱きとめてくれた。触れたところから感じる男の子の体温はとてもあったかくて、なんだかひどく安心した。
私を安心させるように、ゆっくりと、大丈夫、大丈夫と繰り返す声を聞いているうちに、だんだんと本当に大丈夫のような気がしてきた。
「ごめん、なさい。」
「謝らんでええよ。こんなとこ一人で閉じ込められて怖いんは当たり前や。俺こそ、こんなにいっぱいいっぱいやったって、気ぃつけんくてほんま堪忍な。」
あたたかい体温。優しい声。
気持ちが落ち着いてきたからか、だんだんと眠くなってきた。
「…ありがとう。ありがとう、白石、君。」
男の子が優しく笑ったのを微かに感じながら、私は眠りに落ちた。
この人のこと、信じてもいいんだ、きっと。
意識を手放す寸前、あたたかい腕の中で、そう思った。
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