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日も高くなってきて、そろそろ来る頃かなと少し緊張しつつ待っていると、優しげな声とともにノックの音が響いた。
その音に少しビクッとして、一呼吸置いてからゆっくりと扉を開けると、いつもの男の子が笑顔で立っていた。
「神崎、ご飯食べよやー。」
果物食べてるし大丈夫、と思いながら首を横に振ると、男の子は、果物ばっかやとアカンって前も言うたやろ、と優しく言いながら小屋に入って、窓際のテーブルにおにぎりの包みを置いた。
「おにぎり、作ってきたからまた一緒食べようや。」
最初におにぎりをくれようとした時、どう反応したらいいかわからなくて戸惑っていたのを、毒か何かが入っていると警戒して食べないのだと思ったみたいで、あれから男の子はいつも二人分のおにぎりを作って一緒に食べようと誘ってくれる。
「えっとな、右から鮭、おかか、昆布、梅。」
どれがええ?と問われ戸惑っていると、男の子は、好きなん食べてなー、と優しく笑った。
男の子が梅を手にしたのを見てから、一番端にあった鮭に手をのばした。
おにぎりをおいしいと言って食べたあの日から、男の子は毎日、お昼になるとおにぎりを持ってくる。今日みたいにおにぎりだけだったり、たまに卵焼きとかおかずがついてたり、いろいろだ。
こんなことしてもらわなくても、果物と水があるから本当に大丈夫なんだけど、
持っきてくれた食べ物を私が食べると、男の子はとても嬉しそうに笑う。
その顔を見るとなんだか、おにぎり作って来なくても大丈夫って、うまく言えなくなってしまうんだ。
でも、おにぎりを断れない理由は、それだけじゃない。
おにぎりを作って来なくなるということは、この二人でご飯を食べる時間もなくなるということ。
…やっぱり、一人のご飯は、寂しい。
いまだにこの男の子への警戒心が完全になくなったわけではないのだけど、少しずつ、この二人のランチタイムが楽しみになってきている。
この時間がなくなるのは、少し嫌だな、と思っていると、考え事に集中して口が動いていなかったみたいで、男の子が少し心配そうに私を見ていた。
パク、とまたおにぎりを食べた。
「…おいしい。」
「さよか!よかった!どんどん食べてやー。」
男の子は、やっぱり、とても嬉しそうに笑ってくれた。
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