long | ナノ


8


今日の昼、おにぎり食べてもらえてよかったわ。明日も持ってったろ、と思いながら帰り道を歩いていると、後ろからタックルされた。

「っ、とっ、なんしてんねん、謙也。」

前につんのめりそうになりつつ体勢を立て直して振り返ると、いたずらが成功した子どものように笑う謙也がいた。

「久しぶりに白石見つけたから、タックルかましとこ、思てな!」

「久しぶり?何言うてんねん。クラスも部活も一緒やんけ。謙也の顔とか、もう見飽きたくらいやわ。」

そう言って笑いながら謙也にチョップをかました。痛っ、とか言うとったけど、さっきのタックルのお返しや。

謙也はチョップされた場所をさすりながら続けた。

「いやまあ、クラスと部活では見とるけど、ここ数日、昼休みも気ぃついたらおらんし、部活終わりにこうやって帰り一緒になるの久しぶりやん。」

「あー、言われてみたらそうやんな。」

「せやせや。白石、最近昼休みとかどこ行ってるん?」

そういえばいろいろ急やったから、小春と千歳にしか言うてなかったなー。

「んー、校舎裏の森やで。」

「なんや、近場やん。明日、俺も行ってもええ?」

もっと遠くに行っていると思っていたのか、謙也は拍子抜けな表情になった。

「うーん、ええで、って言いたいんはやまやまやねんけどな、謙也がついて来たら多分辿りつけへん場所やねん。」

「辿りつけへんって、なんでやねん。校舎裏の森とか俺かてたまにやけど行くで?」

「謙也、校舎裏の森の幻の小屋のこと、聞いたことあるやろ?」

「あー、あの誰も見たことないっちゅー眉唾もんの小屋?」

「おん、それそれ。」

それがどないしてん?というような顔をする謙也に、行っとる場所な、そこやねん、と言うと、もっとわけがわからなさそうな顔になった。

「なんでかわからへんねんけどな、俺一人で森に入ったら小屋に辿りつけんねんけど、誰かと一緒やと小屋に辿りつけへんねん。」

せやから、謙也もつれて行きたいんはやまやまやけど、謙也がついて来たら、多分小屋には行けけんねん、と言うと、謙也は目をキラッキラさせて俺を見た。

「わー!あったんや、小屋!眉唾ちゃうやんけ、すっご!俺も行きたい!」

「いや、せやから、俺一人やないと辿りつけへんねんっちゅーとるやろ。」

話聞けや、と頭をはたくと、やってロマンやんかー、と謙也は言った。

「白石だけずるいわー!なあ、小屋どんなとこなん?誰かおった?」

謙也、秘密基地とか好きやもんなー、と内心笑いながら答えた。

「わりと普通な小屋やで。そんなおっきくもないし。小屋ん中にはな、女の子がおったで。」

「女の子?ずっと住んでるん?」

「いや、住んでるんやのぉて、知らんうちに連れて来られただけの子でな、なんでかわからんけど小屋の森から出られへんねん。せやから、外に出られる方法を小春や千歳と、探してるとこなんやけど、」

「なんやって!大変やんけ!はよ外出したらな!」

「せやからその出し方を探し中やねんて。話聞けや。」

軽く頭をはたいてから、謙也も、小屋について何か聞いたらすぐに教えてな、と言うと、謙也は、わかった、と頷いた。

「女の子、どんな子なん?」

「…、可愛いで。」

せやけど、いろんなもんがこわくて、あんま話さへんし、笑わへんのやけどな、と思いながら言うと、謙也に、その間はなんやねんとつっこまれた。

「うーん、めっちゃ怯えとって、あんま話さへんし、笑わへんねん。」

声、綺麗やし、もっと話すとこ聞きたいんやけどな、と思いながらそう言った。

「なっ、怯えとるって、白石、お前何したんや!」

「怯えさすようなことはしてへんわ。状況全てがこわいねんて、きっと。」

謙也かて、いきなし知らん場所につれて来られたらこわなるやろ、と言うと、謙也は納得したように頷いた。

「ほんなら、あれあげようや、あれ。」

あれあったらいろいろ気持ち紛れるやろ、と謙也が指さしたのは、ちょうど今歩いている道に面して建っているゲーセンやった。

どれを指しているのかわからず聞くと、謙也はゲーセンに入って、一つのUFOキャッチャーに近づいた。

「…無限プチプチ?」

「おん!あの引っ越しのときの荷物包むプチプチあるやん?あれを無限にできるキーホルダーやねん。何回プチプチ押してももとにもどんねんで!」

すごいやろー、と笑う謙也の頭を無言ではたいた。

「った!なんやねん。」

「アホか!こんなん一人でずっとやってたら虚しくなるわ!」

「無限プチプチばかにすんなや!絶対とったる!」

300円しかないから絶対これでとったる、と意気込む謙也から少し目線をずらすと、ふわふわな何かが目に入った。

「なんやろ、ぬいぐるみ?」

なんとなく気になって100円入れた。左右上下、全ての方向を意識しながらアームを動かすと、取りやすいタイプのやつやったのか、すぐにとれた。

取り出し口に落ちてきたそれを手にとって、手触りええな、と思っていると、300円使いきったらしい謙也が近づいてきた。

「アカンかったー、…ん、なんやそれ。」

いや、なんとなくとってん、と言おうとするより早く、謙也が嬉しそうに口を開いた。

「せやな!可愛い女の子やって言っとったし、無限プチプチより無限モフモフのほうがええかもな!」

「へ?」

「なんやねん、へ、て。その子にあげるつもりでとったんやろ。」

いや、ちゃうって、なんとなく、と言いかけて押し留まった。

このふわふわを見た時、神崎、これ見たら笑ってくれへんやろか、なんて頭をよぎったのは確かや。

「…、まあ、受けとってくれるかは、わからんけどな。俺、結構警戒されとるし。」

首の後ろをかきながら、気ぃつかんうちに神崎のこと考えてたんやなー、となんでかわからんけど一人で照れてしまった。


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