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森の外への出方を探すと約束はしたものの、なかなか情報が集まらへん。昨日の昼休み終わり、学校に戻ってからいろんな人にそれとなく裏な森の小屋について聞いてみてんけど、誰に聞いても、ぼんやりした噂話が出てくるばっかやった。
そういえば、なんも考えんと小屋に残してもたけど、神崎、食べるもんとか大丈夫なんやろか?お腹すかせとったら大変や。
心配に思って、昼休みに小屋を訪ねノックすると、数秒の沈黙の後、中からゆっくり扉があいた。軽く開いた扉のすきまから覗く神崎は、昨日までとは違う服装やった。
「あれ、着替えたんや?」
着替えなんか持ってたんやろか、と不思議に思っているのが伝わったのか、神崎は部屋の隅の小さなクローゼットを指した。ああ、あの中のを借りたんやな。
風呂はどないしたんって聞こうとしたけど、やめた。んなこと聞くんはデリカシーないし、覗くと思われてもいややし。近くに泉みたいなんあったし、多分そこで水浴びでもしたんやろ。
「なあ、お腹すいとんちゃう?」
俺の問い掛けに、神崎は首を横に振って答え、果物の乗っている机の上を指さした。
「ああ、そっか、周り果物取り放題やもんな。せやけど果物ばっかり食べてたら体に悪いで。これ食べ。」
こんなことになっとるかもと思って朝作っていたおにぎりを4つ神崎に差し出した。
「何が好きかわからへんかったから、右から、鮭、梅、おかか、ツナな。」
好きなんとってや、と笑いながら差し出しても、神崎はなかなか手を出そうとはしなかった。
たぶん、まだ俺がこわいんやな。こんなイレギュラーな場所でイレギュラーなこと続きやねんから、なかなか気ぃ許せへんのも当たり前や。
俺は差し出していたおにぎりを一つとって、それを自分の口に入れた。うん、うまい。
「うまいで。」
変なもんなんか入ってへんから安心しぃって気持ちを込めながらそう言うと、神崎はじっと俺の目を見てから、ゆっくりとおにぎりに手をのばした。
おずおずとおにぎりを口に含み、数回噛んで、飲み込んだ。
「…おいしい。」
小さくぽつりと呟かれた声に、なんだかすごくホッとした。
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