long | ナノ


6


日が高くなった頃にまたやって来た男の子は、私以外にもいきなりここに連れて来られた人がいるらしいことを教えてくれた。帰り方、探すから、ちょっと待っとってな、と言っても不安を隠しきれない私を気遣ってか、男の子は人のよさそうな笑みを浮かべて、少し明るい声を出した。

「俺、白石蔵ノ介って言うねん。なあ、自分も名前教えてや。」

「神崎、伊織。」

「神崎な。ん、覚えた。実は今朝、友達と三人でこの小屋来ようとしてんけどな、辿りつけへんかってん。」

辿りつけなかったって、どういう意味だろうと考えていたら、男の子は続けた。

「なんでかわからんけど、俺一人んときしか来られへんみたいやねん。」

不思議なことがたくさんすぎて、なんだかびっくりもしなくなってきたな、なんてぼんやりと考えていたら、私が落ち込んだと勘違いしたのか、男の子は私を元気づけるように、大丈夫、と強く言った。

「大丈夫やで。俺、神崎が外に出られるように頑張るし、ここには来られへんけど、俺の友達も外に出る方法探してくれとるし。せやから大丈夫。」

実は、まだこれは夢なんじゃないか、目が覚めたら不思議な夢だったなって友達に話して笑っておしまい、そんなふうになるんじゃないかっていう希望を捨てきれていなかったのだけど、真剣に話す彼を見て、ああ、これは夢じゃないのか、と改めて事実を突き付けられた気がした。

この人、優しそうだけど、…一体何者なんだろう。なんで他の人は出入りできない場所に、この人だけ入れるんだろう。

何を考えればいいのか、何を信じていいのか、なにもわからない。こわい、なにもかも。

男の子が帰ってからベッドの中に入った。

起きたら全部夢になるかも、なんて幻想は、もう抱けなかった。


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