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昨日の小屋のこと、まずは誰に聞こうかと考えていたら、前方から千歳が歩いて来た。ナイスタイミングや。
「お、千歳ー!」
「んー、白石、どうかしたと?」
「千歳、校舎裏の森よく行くやろ?あの森の小屋について聞きたいんやけど。」
前、天気のいい日はほとんど森行くって言っとったし、多分千歳も小屋見たことあるよな、と思って尋ねると、千歳は不思議そうに首を傾げた。
「小屋?隠れ家でも作ると?」
「いや、作るんやなくて、もうすでにあるんやけど、…千歳、見たことないん?」
「うーん、あの森はよく行っとーよ。ばってん、小屋なんち見たことなかばい。」
んなアホな。森入ったらすぐ見つかるやん、小屋。どーいうこっちゃ。
「ほら、果物たくさんの木の先のちょっとひらけたとこにあるやん。」
あんな単純な道、すぐ見つかるやんけ、と思いながらそう言うと、千歳はさらに不思議そうな顔をした。
「あの森、果物のなる木なんてなかよ?」
「…え、」
俺は確かに見たのに、どういうこっちゃと不思議に思っていると、後ろから明るく声をかけられた。
「蔵りん、千歳、おはようさん。」
「おはよー。」
「小春、」
「で、蔵りんどないしたん?むっちゃ難しい顔してんで。」
「…実はな、校舎裏の森の小屋について、ちょっと気になることがあって、」
小春ならなんか知っとるやろか、とそう切り出すと、小春は、あー、あの噂の?と言った。
「小屋があるって噂やけど、まだ誰も見たことないんよね。」
「え、いや、俺一昨日森入ったけど、めっちゃ簡単に小屋見つかったで。昨日も行ったし。」
「ほんま?んー、まだホームルームまで時間あるし、ちょっと今から行ってみよか。」
アタシが行った時はなかってんけどな、と不思議がる小春と、隠れ家ばーい、と喜ぶ千歳を連れて、森に入った。
「こっちやで、…あれ?」
「ん、どうしたん、蔵りん。」
森に入った俺の目に飛び込んで来たのは、たくさんの果物の木ではなく、果物のならない木ばかりだった。
どういうことや。今までやったら森に入ってすぐにたくさんの果物の木が目に入っていたのに。
俺が、いつもとちゃう、と独り言のように呟くと、千歳が不思議そうに、いつもどおりやなか?と聞いてきた。
「あんな、俺、昨日この森で見つけた小屋で女の子に会ってん。その子、知らんうちに小屋に連れて来られてたみたいでな、小屋から出られへんねん。…せやから、噂んこと詳しく調べたらなんか助けになるかなって、思ってんけど。」
小春はうーん、と唸ってから続けた。
「女の子、ねぇ…。アタシもよくは知らんのやけど、ここの小屋にいきなり人が連れて来られるっちゅー噂もあったで、確か。」
「ほんまか!その人はどうやって帰れたん?」
「うーん、あくまで噂にすぎんから詳しくは知らんのよ、ごめんな。せやけど、来た道があるんやったら、きっと帰る道もあるんちゃうかな。」
やっぱ所詮噂やから、詳しいことなんて分からへんよな、と落ち込む俺を見て、小春は元気づけるように背中を叩いた。
「アタシも噂について調べてみるから、蔵りん、女の子元気づけたってな。なんでか分からへんけど、蔵りん一人ん時しか、小屋に行かれへんみたいやから。」
「せやな、おおきに、小春。」
ほんまや、俺が落ち込んでどないすんねん。
昼休み、なんとか帰り方探すって、また言いに行こう。
昼休みになって、森に入ると、簡単に小屋にたどり着いた。やっぱ、一人やったら迷わんと入れるんな。
いきなり人が連れて来られたこと、前にもあるらしいで。その人が今おらんちゅーことは、ちゃんと外に出られたっちゅーことやから、自分もきっと外に出られる方法あるんや。帰り方、探すから、ちょっと待っとってな。
そう小屋の中で告げると、女の子は、まだ怯えの色が完全には消えない瞳で俺を見てから、ゆっくりと頷いた。
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