「苗字さん、264秒遅刻ですよ」
「ごめん真名部くん、ちょっとお風呂入ってて…えっと…264秒ってことは、えぇっと…、…」
「4分24秒です、これくらいすぐに計算できないと世の中やっていけませんよ」
「うう、ごめんなさい…」
「どうでもいいので早く食器洗いに取り掛かってください」
「はい…」


イナズマジャパンのメンバーは、蒲田さんの手伝いとして毎食後交代で皿洗いをしている。今日の夕食後の当番は、真名部陣一郎と苗字名前の二人だ。

名前は食べ終わるのが早く、今日はいったん食器を流しに運んだあとすぐに風呂に入ってきたようで、乾いていない髪からはぽたぽたと水滴が滴っていた。
真名部はそれを見てわざとらしい溜息を吐いて、食器を洗いながら名前に話しかけた。


「あなた、本当に女子ですか?」
「な、いきなり何…?」
「普通なら髪を乾かしませんか?それにカラスの行水じゃありませんか、あなたが食堂を去ってからお風呂に入って此処に戻ってくるまで950秒…15分50秒しか経っていませんよ?」
「……真名部くんは計算が本当に好きなんだね」
「はぐらかしてます?」
「……」
「……」


ガチャガチャパシャパシャと食器が音を立て、泡は洗い場を行ったり来たりして、やがて流されていく。
真名部との間に痛い沈黙が走って、気まずいな…と名前が静かに溜息をついたときだった。


真名部が少しだけそわそわした素ぶりを見せたあと、無言で名前の頭の上に何かを置いた。
名前は真名部の突然の行動に驚き、少しだけ固まったあと、頭の上に乗った何かを触った。…タオルだ。


「真名部、くん…?」
「それできちんと頭を拭いてください」
「あ、うん…ありが、とう?」
「…なんで疑問系なんですか」
「いや、うん。真名部くんが意外と優しくて、驚いたというか。まさかタオルを貸してもらえるなんて思ってもみなかった」
「意外とって…失礼な人ですね」
「へへっ、ごめんごめん」


名前はそう言うと、真名部のタオルを頭に押し付ける。そんな彼女を横目で見ながら、真名部は少しだけ気まずい思いをしていた。

彼女の言う通りだ。
なぜ自分は苗字名前にタオルを貸したのだろう。ただのチームメイト…いや、チームメイトにもなりきれていない他人の世話なんて焼いてしまったのだろう。

元々女子慣れしていない真名部は、自分の首にかけていたタオルを使い頭を拭く名前を見るだけで、顔全体が熱くなっていくのを感じた。…ああ、意味がわからない。自分が、わからない。


真名部が悶々と考えている間に頭を拭き終わった名前は、最後の皿を拭き終えて食器棚に戻した。そしてなにやらぶつぶつ呟いている真名部の肩を叩くと、彼は大げさなくらい大きく身体を強張らせてこちらを見た。


「なっ、なんですか…?」
「お皿洗い終わったよ、じゃあ私今日はちょっと行くところがあるから帰るね!あ、タオルはまた洗って返すから!」
「え、ええ…」

そう言うと名前は急ぎ足で食堂の入り口へと向かった。彼女が立ち去ったあとに香ったせっけんの香りとか、まだ少し濡れた髪にどぎまぎしながらなんとか返事をした真名部はあることに気づいた。


そういえば、彼女は夕食が終わったらいつも練習をしていたはずだ。だが今日はすぐに風呂に入り、そして何処かに行ってしまった。……まあ、別に僕には…関係ないですけど。




20130604

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