時刻は午後九時、今日の韓国戦で疲れた身体を休めるためにシャワーを浴び早めに就寝しようと思っていた時だった。部屋にノック音が響く。
こんな時間に誰だよ…。
少しだけ苛立ちながらドアを開けると、そこに立っていたのはユニフォーム姿の苗字だった。まさかこんな時間まで練習していたのか…?
意外な来客に内心驚きと、少しの不信感を抱きながら俺は苗字に問いかけた。


「こんな時間にどうしたんだ?」
「よ、夜遅くにごめんなさい。あ、私…その…瞬木くんに謝らないとって思って…」
「謝る?」

俺が首を傾げると、苗字は話し始めた。どうやら、今日の試合中に俺を無視してパスを回さなかったことについて謝りに来たらしい。……。


「本当にごめんなさい!瞬木くんにひどいことしてしまって…それに、瞬木くんは何もやってなかったのに…勝手に決めつけて、本当にごめんなさい…」
「…そんなに気にしないでよ、俺は気にしてないから」
「でも…」
「それに苗字さんはこうして謝りに来てくれたじゃないか。本当に、気にする必要はないよ」
「瞬木くん…」
「ほら、今日は試合もあったし疲れてるだろ?早く部屋に帰って休んだ方がいいよ」
「うん、そうだね…!…瞬木くん、ありがとう、おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」


そう言うと、苗字は俺に手を振って廊下を駆けていった。その後ろ姿が見えなくなってから、俺は笑顔を作るのをやめて、部屋に入った。


苗字名前…か。
俺のために謝りに来た、というより自分の保身のために謝りに来たんだろうな。
試合の前と試合中は真名部のことを気にかけて、試合後は俺…完全に偽善者だ。他の奴の意見に流されてるだけの、信用できないタイプの人間。

だけど、自分がしたことを申し訳ないとは思っているのだろう。現に、苗字と同じようなことをしていた他の連中は真名部に謝らせるように仕向けただけで、謝ってなんてこなかった。
でも俺は苗字より他の奴らの方がよっぽどマシだと思う。


へらへらしてまわりの機嫌とって、都合よく振舞う。そんな奴が一番、信用できないんだよ。


20130531

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テーマ「人外ファンタジー」
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