「名前ちゃん!目が覚めたのね…本当に良かった…」


目を覚ますと、見慣れた宿舎の天井、そして泣きそうな葵ちゃんの顔。ゆっくりと目の前が明るくなっていく。あれ…私、どうしたんだっけ。
起き上がろうと体に力を入れると痛む腹。顔を顰めると慌てた様子で葵ちゃんが私の身体を支えてくれた。



「名前、あんまり動かないほうがいいんじゃない?」

さくらの声が聞こえ、辺りを見回した私はようやくこの部屋にアースイレブンの全員が揃っていることに気が付いた。くらくらする頭を押さえながら、考える。…確かあの時、私はサンドリアス人に…。すると、そんな私の様子を見かねた葵ちゃんがあの後起こったことを事細かに話してくれた。
私はサンドリアス人に殴られた後、地面に体を打ち付け意識を失ったらしい。すると、どこからか飛んできたボールが私を殴ったサンドリアス人に命中し、さらにそのボールはサッカーバトルをしていたキャプテンたちのもとへ向かい、争いを止めたのだそうだ。


ボールを蹴った人物は、サンドリアスチームのキャプテンのカゼルマという人らしい。その人が来なければきっと、私はもっと危険な目に遭っただろうし、キャプテンたちも勿論同じだ。…これから戦う相手が、助けてくれたのだ。動揺した、それはもちろん良い意味でも悪い意味でも。私は酷い誤解をしていた。宇宙人だからって、優しい心を持った人だって当たり前にいるのだ。先ほども感じたように、私たち地球人となんら変わりはないのだ。



「空野から事情は聞いた、苗字。頭をぶつけたみたいだが、大丈夫か?」
「少しくらくらしますね」
「…足も軽いが怪我をしている、今回の試合には出場できそうにないな」
「え。」
「え。じゃないわよ、そんな状態じゃ危険に決まってるでしょ?」




神童さん、剣城くん、さくらの言葉に対して、みんなの迷惑になるからと出場を望んだが、みんながものすごい勢いで首を横に振る。それでも、というと水川さんから「むしろ無理に出場して使い物にならなくなる方が迷惑」と厳しいお言葉を頂いたので何も言えなくなった。みんなが私の部屋から出ていったあと、残っていた皆帆くんがちょこちょこと近づいてきたので首を傾げたら、何やら怪しげな面を差し出された。


「皆帆くん…これなに?」
「苗字さんへのお土産だよ、その様子じゃ観光らしい観光もできなかったんじゃないかと思ってね」
「あ、ああうん。…でも、これ何?」
「これはね、サンドリアスのドーマって生き物のお面だよ」
「ああ、あ〜うん。えっと、ありがとう?」
「どういたしまして。それにしてもコレ、苗字さんらしいなと思ったんだ。特にこの表情、そっくりだね!」
「・・・・・・・」



…ひじょうにのっぺりしている。



「じゃあ、お大事に。焦っているからって抜け出して練習したら駄目だよ?」
「う、うん。…ありがとう皆帆くん。おやすみ」
「うん、おやすみ」


なんだか、気が抜けちゃった。ぼすんとベッドに沈む。皆帆くんのお土産、天然なのか狙ってやってるのか…分からないけど。
でも、気分を変えることが出来てよかった。皆帆くんに感謝しないと。
ふうとため息をついていると、再び部屋のドアが開いた。あとで夕食を持ってきてくれると言っていた葵ちゃんが来たのかな?と思い目を向けると、そこにはなんと瞬木くんがいた。
予想外の来訪者に驚きを隠せないでいると、今まで無表情だった瞬木くんがふっと笑った。空気が変わった。



「お前さ、ケガしてまでここに何しに来てるわけ?」
「…え?」


まただ。また、あの時の瞬木くんが、目の前に現れた。
いつもみんなに気を遣っている瞬木くんじゃなくて、冷たい表情の瞬木くん。最後に二人で話して以来、彼と直接会話をしていなかったが、それでも彼は私以外のみんなの前ではいつもの瞬木くんのままで。もしかしたら私があの時見た瞬木くんは機嫌が悪かっただけなのかもしれない、とか、…色々思ったけど。でも、どうも機嫌が悪いというわけではないようだ。上手く言えないけど、…雰囲気が、まったく違うのだ。

警戒しながら、瞬木くんを見ていると彼は私を見てフッと笑う。それから、思い切り顔を顰めた。



「お前さ、才能ないのに恥ずかしくないのか?」
「どういう、意味?」
「そのままだよ、みんなの足をさらに引っ張って。…迷惑なんだよ」
「なんで、そんな言い方するの?」
「気に入らないからだよ、お前が」


ここまで、悪意を向けられるのは久しぶりだった。最初は唖然としていたのだが、ふつふつと理不尽さに怒りが湧いてきた。私が才能ないなんて、知ってるけど、けどそれを瞬木くんに言われる筋合いはない。


「なんでわざわざ此処に来てまでそんなこと言わなきゃいけないの?瞬木くんの考えてること、理解できない!」


私がそう言うと、顔を顰めていた瞬木くんが一気に無表情になる。ぐわっと、周りが重くなった…そんな気がした。

それから静かに、こぼす。






「誰も俺の考えなんて、理解できるはずないだろ」


そう言うと、そのまま私の部屋を出ていった。私は、しばらくそのドアから目を逸らすことが出来なかった。





20140212
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