宇宙ってどんなところなんだろう。
お話の中で見た宇宙は、深い青の世界。キラキラと輝く星が散りばめられた、そんな世界。きっと、誰もが一度は憧れる世界だろう。

まさかこんなに簡単に宇宙に行くことができるなんて、思ってもみなかった。
ギャラクシーノーツ号から覗ける、星屑の世界にほうとため息をつきながら、名前は自分たちのこれからについて考える。

地球代表としてグランドセレスタ・ギャラクシー本戦への出場が決まって、すぐに宇宙へ旅立った時は、これからもっともっと頑張ってその頑張りを結果に繋げたかった。そして、家族に自分を認めてほしかった。その上で、家から出ることを認めてほしかった。…そのことしか、頭になかったんだけど…。
でも、いざ宇宙にくると…少しだけ、恐くなった。得体も知れない宇宙人たちと、地球の命運をかけて争わないといけない。命を、落とすかもしれない。



「……」
「浮かない顔をしていますね」
「あ、…市川くん」
「となり、いいですか?」



私が頷くと、市川くんはにこりと笑って私の隣に立ち、そして同じようにギャラクシーノーツ号から外を覗いた。
彼は宇宙に行くことが決まった後に加入した新メンバー。とても紳士的でそして確かな実力もある男の子。二人で話すのは初めてなので、少しだけ緊張してしまう。…だって、彼の歌舞伎は何度かテレビで見たことがあるんだもの。


「不安、ですか?」
「…うん、そうだね。地球を救う…頑張ればそんな大きな結果が出せるんだって思ったら、わくわくしてた。…最初はそれだけしか考えてなかったんだけどね。…いざ宇宙に出てみると、怖いなって」
「私も同じですよ」
「え、市川くんも…?」
「はい、私もただの名もなき小市民ですから。とはいえ、ちゃんと名前はあるのですがね」
「…………ん?」
「…………今のは、ほんの冗談のつもりでした」
「え?…あ、あ…そ、そうなんだ。ごめんね?」
「いえ、気にしてませんよ」



それにしても、冗談の内容はちょっとよく分からなかったけど市川くんも冗談言うんだなぁ。テレビの中の印象では、すごくお堅い人なのかと思ってたけど…。なんだか、面白いや。
私が少しだけ笑うと、市川くんは少しだけ目を開いた後、すぐに笑顔になった。……気を遣ってもらっちゃったなぁ。













最初の星…惑星サンドリアスに着いて、練習開始までしばらく時間ができた。皆各々にサンドリアスの観光をはじめ、私もさくらに誘われたので二人でこの星を見て回ることになったのだが…。



「もう、名前ビクビクしすぎ!」
「だ、だってさくら…ここ宇宙だよ、宇宙人たくさんいるし、しかもサンドリアス人、超宇宙人って感じで怖すぎる…」
「だからって私の後ろに隠れないでよ、歩きにくい!それに向こうからしたら私たちが得体のしれない宇宙人なのよ?」
「それはそうだけど…」
「あっ、あれ可愛い〜!」
「ちょ…!待ってさくら!」


さくらの興味の対象はコロコロと変わる。その度に走って人ごみに紛れどこかへ行ってしまうから、ついに見失ってしまった。
私はため息を吐いて頭を抱える。砂っぽいし宇宙だしサンドリアス人怖いし宇宙だし…しかもさくらまで見失ってしまった…こんなことなら、誰か…そう、神童さんとか、真面目な人に着いて行けばよかったのだ。そしたら一人置いていかれることもなかったのに…。

サンドリアス人の視線が痛い。それはそうだろう、彼らからしたら私たちは敵なのだ。自分の星が滅亡するかもしれない原因になりうる脅威なのだ……。……そうか、よく考えてみたら、そうなんだよね。サンドリアスの街を見回す、商店や家が立ち並ぶ。楽しそうに歩く親子、仲睦まじく肩を寄せ合う男女。生きているんだ。宇宙は決して、お話なんかじゃない。みんなが、みんな暮らしているんだ。私たちと、同じなんだ。



そう考えたら、何とも言えない気持ちになってしまう。…もし、私たちが勝ったら…この人たちは。




「苗字!」
「…あ、九坂くん!」


声をかけられたので、顔をあげるとそこには九坂くんがいた。ああ、よかった…これで一人じゃなくなった。
彼に駆け寄ると、好葉ちゃんを見なかったか聞かれた。見ていないと答え、自分もさくらとはぐれたことを伝えると、一緒に行動しながら二人を探そうと提案されたので、それに同意する。
しばらく二人で歩いていたのだが、さくらと好葉ちゃんを見つけることはできず。それからまた偶然合流できた葵ちゃん、キャプテンや西園くん、鉄角くん、それに瞬木くんと話していた時だった。サンドリアス人のグループが突然、挑発をしてきたのだ。


私と葵ちゃんはサンドリアスのグループとキャプテンたちの試合を少し離れた場所で見守る。サンドリアスの人たちのプレイは荒く、とても危険なものだった。
サンドリアスの一人がぶつかった建物が音を立て崩れた時、身体が震えた。こんな、こんなにも恐ろしい人たちと、戦わないといけないの…?もしあのタックルを生身で受けたらと思うと、恐ろしくてたまらなかった。

フィールドに立っているキャプテンたちが危険な目に遭っている。葵ちゃんが他の皆を呼んで来ようとその場を離れようとしたのだが、ガラの悪いサンドリアス人たちに阻まれてしまう。それでも葵ちゃんは気丈に振舞い、サンドリアス人に道を開けるように願い出る。だがそれが原因で、相手の機嫌を損ねてしまったようだ。
彼女の腕が乱暴に掴まれ、葵ちゃんが短い悲鳴を上げる。その瞬間、私は葵ちゃんの手を掴んでいたサンドリアス人を突き飛ばした。咄嗟の、行動だった。



「名前ちゃん…!」
「小娘ぇ、やってくれたな!」


男の拳が振り上げられ、そして鋭い痛みが走る。最後に聞こえたのは、葵ちゃんの悲鳴と何かが風を切る音だった。





20140119
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