アジア大会の決勝戦が終わった直後に起こったとんでもないこと。
巨大な宇宙船の出現、ストームウルフの選手たちの消失、そして異星人。私たちが地球代表として、グランドセレスタ・ギャラクシー本戦への出場が決まったという事実。地球存亡の危機。…私たちは新たな「アースイレブン」として宇宙へ向かわなくてはならなくなった。

アースイレブンのみんなはそれぞれ家族に別れを告げるため一旦帰宅、私はというと親との関係や距離の関係で家に帰るのは止めることにした…のだが、試合を見に来てくれていた弟にだけは会おうと思い、彼の泊まっているホテルへ向かおうとしたのだが、なんと向こうから宿舎へとやってきてくれたのだ。
私は憂を自分の部屋へと案内し、そこでこれからのことを話したのだが、私が話を続けるにつれ弟の顔が険しいものになっていく。


「宇、宙…?」
「うん、宇宙。宇宙にサッカーをしに行くんだ、私たち」
「そ…んな、馬鹿な話があるわけがないでしょう…」
「憂、」
「っ…仮に、仮にその話が本当だったとしても、なんで姉さんがそのような所に行かなくてはならないんです!」
「…!」


両肩を掴まれた。いきなりのことに驚いて憂の顔を見ると、いつもの涼しげな表情とは一変…泣きそうになりながら縋るような、そんな表情だった。
私が弟の名前を呼ぶと、憂はハッとして、それから視線を逸らしながら私から離れていった。…こんなことは初めてだったから、私も何て声をかけたらいいのか全く分からなかった。


「……大体、なんで姉さんなんだ。昨日のサッカーの試合だって、危なっかしい。相手の選手と何度もぶつかっていたし、あのよく分からない技で飛ばされもしていたじゃないか。危険だ。それに今度は宇宙人?何をされるかわかったもんじゃない」
「も、もしかして憂…心配、してくれてるの?」
「っ!当たっ…、……、こんな野蛮なこと、姉さんには向いていないんですよ、だから僕は忠告しているだけです」
「…ふふっ」
「な…に、笑っているんですか」
「あのね憂、心配しなくても良いよ。私一人だと憂の言う通り危なっかしくて向いてないのかもしれない。だけどね、みんなと一緒だから。仲間がいるから、全然平気なんだよ」
「…(僕が一番心配なのはそれなんだよ…)」
「憂?」
「……はあ、分かりました。では僕は帰ります」
「うん。…あ、それと…憂、この戦いが終わったら…、家族みんなに話したいことがあるの」
「……じゃあ、心配していますからさっさと無事に帰ってきてくださいね」
「…うん、またね」
「ええ、……また」











「弟くんと話をしていたのかい?」
「皆帆くん!」

弟を見送った後、これからしばらく地球の景色を見ることが出来なくなるため、目に焼き付けておこうと散歩をしていた時だった。
グラウンドの前にいた皆帆くんに声をかけられたので彼の近くに駆け寄ると、皆帆くんは優しく微笑んでくれた。



「さっき君の弟くんが宿舎から出てきたのを見ていたんだ。…上手く話せた?」
「うん、心配だから早く帰ってきてって言われちゃった」
「やはりね。…前に聞いた話だと、あまり弟さんと上手くいっていないように聞こえたんだけど、でもそうじゃないみたいだ」
「?」
「苗字さん、1つ謝っておかないといけないことがあったんだ。弟さんが初めて宿舎に来たとき、僕と真名部くん…君の後をつけてこっそり弟くんとの会話を盗み聞きしていたんだ」
「え、そうなんだ」
「その時ね、君に向かって話す弟さんが…なんだか、君のことを…何て言ったら良いんだろう、そうだな…放したくない、とでも言いたげな表情で見ていたんだ」
「……そっか」
「弟くん、君のことがとても好きなんだと、僕は思うよ。…誰も、君を見ていないわけじゃないよ」
「…うん、ありがとう。…ありがとう」





その次の日、私たちはギャラクシーノーツ号に乗り込み地球から旅立った。
窓から見える美しい青い星に別れを告げ、私は自分の拳を握りしめる。……頑張ろう、これまで以上に。






20131204



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -