レジスタンスジャパンとの一戦、イナズマジャパンが軌道に乗り始めてから初めての『負け』試合だった。勝ち試合が続いて皆もやる気になった矢先のことだったから、ダメージも大きい。

だけど皆、悔しさをバネにしてブラックルームでの練習を始めた。私はというと、しばらく皆と練習していたんだけど、なんだか皆が練習する姿を見ていられなくなり、静かにその場を後にした。


みんなみんな、努力している。私がどれだけ練習しても、みんな同じくらい練習してて、元から運動なんてしていなかった私はその穴を埋めるだけでも大変で…。追いかけても追いかけても置いていかれて、いたちごっこだよね、ホント。……瞬木くんに言われたこと…自己満足で現実を見たほうが良い…本当にその通りだよね。…なんで私だったんだろう。なんで、私なんだろう。私に、何ができるんだろう。運動神経もなくて、必殺技だってない私なんて…。

おまけにレジスタンス戦で動きすぎて全身だって痛いし。全部が全部、痛い。ぽろりと、涙が出てきてしまった。涙は一旦出てきてしまうと、中々止めることは難しい。

その場に座り込んで、ユニフォームの裾で涙を必死に拭う。すると、地面に影が差した。特徴的なその影はすぐに誰のものかわかったが、私はなにも言わなかった。彼も、なにも言わなかった。

しばらく、時間が経ったあと、私は独り言のように話しはじめた。



「私を認めて、もらいたい。私を認めてあげたい。でも、いくら頑張っても成果が見えない、…努力したら、認めてもらえるんじゃなかったの…?なにが、足りないの?憂にあって、私に足りないものってなんなの?なにが、ダメなの?」
「……」
「…わかってる、よ。私がダメなやつってことくらい、わかってるから。ただの自己満足で、練習してたことくらい、わかってるから」
「君が君を否定したらダメだよ」
「………」
「君はいつも笑顔でひたむきに頑張ってた。君をみて頑張ろうと思った人もいたはずだよ。そんな、みんなを勇気づけられる君も、君が嫌だと感じている君も、なりふり構わず頑張っていた君も、こうして悩んでいる君も全て含めて君なんだ。まず君が、それを認めてあげないとなにも変わらないよ」
「…皆帆、くん…」


顔を上げ、上を向いた。太陽を背に皆帆くんがいつも通りの表情で私のことをみていた。そんな彼の様子を見るだけで、何故だか心が軽くなり、落ち着くことができた。


「あのね、皆帆くん」


私は、皆帆くんに全てを話した。幼い頃、練習や努力もせずに才能のみで数々の賞をとってきたこと。でも、次第に才能が曲のレベルに追いつかなくなってきたこと。例の大会で、最悪の出来で本番を迎え、そして当然の如く失敗し、親の顔に泥を塗ってしまったこと。ピアノをとりあげられたこと。その大会は弟が最優秀賞をとったこと。弟は才能もある努力家だったこと、弟と自分を比較する両親、その両親に気をかけられることがなくなってしまったこと。己を恥じたこと。ピアノを触れなくて苦しんだこと、後悔したこと。そしてイナズマジャパンに入った理由、努力をしなければという思いのみで動いたこと、切羽詰まっていたこと、瞬木くんに指摘されたこと。


「私って、自業自得の大バカ者なんだ。…ごめんね、こんな話聞かせちゃって。…幻滅したよね」
「そんなことないさ、僕は君という人が知れてよかったと思う。それに君は自分の分析ができるくらい、自分と向き合えてるじゃないか。…僕は嫌いじゃないな、君みたいな人」
「…ありがとう、皆帆くん…」
「……(それにしても、瞬木くん、かぁ…)」
「…どうしたの、皆帆くん?」
「あ、いや。なんでもないさ。それより蒲田さんに氷をもらいに行こう、目が腫れちゃうよ?」
「あ、うん、そうだね。ありがとう!」


過去の自分にも今の自分にも、私は全てに甘えていたな、と感じた。甘えずに、立ち向かわなければ。向き合わなければ。私は、ここでサッカーをするって、決めたんだ。もう、あの時のように後ろを向かない、逃げない。こうして、私のことを見てくれた人だっているんだ。無駄なんかじゃ、ないんだ。…それで、いつかピアノにも真摯に向き合うんだ。…もう私は、甘えない。自分の正しいと思ったことを信じて進むんだ。



20131001
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テーマ「人外ファンタジー」
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