※くさこの表現有








「な、なぁ苗字…ちょっといいか?」
「九坂くん、どうしたの?」

数日の後にタイのマッハタイガーとの試合を控えたとある日、休憩中に九坂くんがこそこそと私に近づいてきた。彼は少しだけ気まずそうに辺りを見回した後、小声で話し始めた。


「あ、あのさ…女子って、どういうこと言われたら喜ぶんだ?」
「え?」
「いや、あの…だからさ…あーー…」
「?」


九坂くんが視線を泳がし、とある一点で止めた。私も続いてそちらを見ると、そこには…。ははぁーーん。


「九坂くんって、好葉ちゃんが好きなんだ」
「なっ、……なんでわかったんだ?」
「そりゃあ、そんなに熱い視線送ってたら分かっちゃうよ」
「……で、よ」
「ああ…喜ばれる言葉?…そうだなぁ、時と場合によるけど…九坂くんは好葉ちゃんに好きって伝えたいの?」
「…まあ、 いずれは…」
「う〜ん…まあ、直接好きって言われるのが一番うれしいかな。というか、私でよかったの?経験なんてほとんど無いし、さくらちゃんとか葵ちゃんに聞く方が良かったんじゃない?」
「いや…野咲に相談したらどうなるかなんて目に見えてるし、マネージャーよりもお前のほうが一緒にいることも多いし、話しやすかったんだよ」
「あはは、そっかそっか」
「ニヤけてるぞ」
「だって九坂くんが可愛いんだもん」
「おいおい…」


そこで休憩時間は終わった。九坂くんは私にお礼を言って、それから好葉ちゃんのほうへ駆けていった。だけどなんだか好葉ちゃんは九坂くんを避けてるみたいで…前途多難だなぁ…ガンバレ九坂くん。

…そういえば。




「(皆帆くんと真名部くん、まだ喧嘩してるんだ…)」



あの日、私は皆帆くんと一緒に図書館から合宿所に帰ってたんだけど、その時に偶然真名部くんと真名部くんのご両親が話をしている所を聞いちゃったんだよね。そこで、真名部くんと皆帆くんがちょっと口論になっちゃって。…それから何日か、二人の間に流れる空気は険悪そのもの。

……でも、まあ私は正直…両親に期待されている真名部くんも、お父さんを慕って家族のことを胸を張って話すことのできる皆帆くんも、羨ましくてたまらないんだけど。



お父さん、お母さん、……憂。黒岩監督にスカウトされた次の日、何も言わずに荷物を持って飛び出てきたんだけど…。…まあ、どうせ私のことなんて心配してないよね。メールだって、電話だってこないし。きっと、いい厄介払いが出来たって喜んでるよ。…だって私は、もう苗字家には、必要ない子なんだし。……。



おっと…今は、そんなこと考えてる場合じゃないよね。今はサッカーを頑張って、ここで自信をつけることが出来たら…そうしたら、黒岩監督との約束だって果たしてもらえて…また、ピアノができるようになるんだから。……。私の願いは、苗字を変えること。本当なら難しいらしいんだけど、黒岩監督の力なら何とか、できるらしい。

苗字を変えることができたら、両親や憂に迷惑かけることなく音楽ができる。…だから。私は世界大会への参加を受け入れたんだ。…今は絶望的だけど、ここでちゃんと頑張れば…きっと…。


苦しいことも多いけど、でも努力してるから…こんなに練習してるんだから、あの時のようにはならないよね。…絶対、ならないよね。



とりあえず、ブラックルームという練習場所も増えたことだし、これまで以上に頑張らないといけないね。





20130905


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テーマ「人外ファンタジー」
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