夕飯の後でしばらく自室でくつろいだ後、そろそろお風呂に入ろうかと思い部屋を出ると、廊下の端に…彼女の姿が見えて、わざと忘れ物を取りに部屋に戻るように見せかけて時間を置いた後、再び部屋の外に出る。するとちょうど僕の部屋の前を通りかかる彼女と目があった。……わざわざ、何をやっているんだ僕は。



「あ、真名部くん。お疲れさま」
「苗字さん、お疲れさまです。これから練習ですか?」
「うん、そうだよ。今まで瞬木くんとお皿洗いしてたんだけど、そのあと少しお話してたらこんな時間になっちゃった」
「そ、そう…ですか」
「?どうしたの、真名部くん」
「い、いえ何でもないです」


また、瞬木。


最近苗字さんと瞬木…くんが一緒にいるところを見かけることが多くなった。少しだけ、良い気がしないのは何故でしょうか。

そ、それよりも、苗字さん。以前より自主練習の時間が長くなっている気がしますね。それに合わせて傷も増えているように見えます。
一体何のためにそこまで練習をするのでしょうか。当然彼女も僕たちと同じく契約でここに居る、それは自分たちと何も変わらないはずなのに。彼女はどうしてそこまでサッカーに対して時間を割くのでしょうか。不思議で仕方ありません。



「もう夜の9時をまわっていますよ、十分な休息を取った方が僕は良いと思いますけどね」
「…でも、やらないと追いつけないからさ」
「追いつく?」
「うん、追いつく。もっと体力つけたいし、ボールを上手に蹴れるようになりたいし…必殺技も、うん」
「…何故そこまで頑張るんです?」
「私は…頑張ってなんかいないよ。まだまだ、だから。まだまだ足りないから。それに明日は全体の練習はお休みでしょ?だから今日はもう少しだけなら大丈夫かなって」



そう言って笑う彼女の目は、よくよく見ると全く笑ってなくて。僕は驚いて何度か目を瞬かせた後、彼女の名前を無意識に呼んでいた。


「どうしたの、真名部くん?」
「…苗字さん、無理、してませんか…?」
「…そんなことないよ!私は今やるべきことをやってるだけだし、へたくそが努力するのは当たり前でしょ?」
「そう、ですか」
「……じゃあ私練習しに行くね!おやすみ、真名部くん」



そう言ってグラウンドへ向かう苗字さんの背中を僕はただただ見送ることしかできなかった。
…彼女、どこか様子がおかしいです。でもきっと彼女は僕には何も話してくれないんでしょうね、僕は彼女にとってただのチームメイトでしかないのだから。

今ここにいたのが僕ではなく瞬木くんだったら、彼女も話してくれたんですかね。
……。
………はあ。こんなことを考える自分が一番、分かりません。なんなんでしょうかね、ホント。これじゃあまるで僕が、苗字さんを気に、気にしているみたいじゃないですか。…ば、ばばば馬鹿馬鹿しい。
























「ねえ苗字さん、今日の予定はもう入っているかな?もし何もないようなら、僕とデートしようよ」


だ、だから次の日の朝、皆が集まった食堂で堂々と彼女を誘った皆帆くんのこ、ことなんて…馬鹿馬鹿しいとしか思いませんでしたから。……、…本当です!!






20130711


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