私は見返してやりたかったのかもしれない。

私を認めてくれない親、私の欲しかったものすべてを持っている弟を。私が、弟じゃなくて私が代表に選ばれて。弟が持っていないもので、見返したかったのかもしれない。
黒岩監督の言葉、代表入りを二つ返事で引き受けたのも…ただただ、自己満足のため。



「はぁ…、なにしてんだろ、私」


夜、誰もいないグラウンドでボールを蹴る。虚しい。虚しい。虚しい。やるせない。
サッカーは確かに、楽しい。楽しいけど、でも結果が全くといって良いほどついてこないのだ。…今日のオーストラリア戦、みんな…大活躍だった。最初は、私と同じ初心者だったのに。瞬木くんと井吹くんは必殺技を習得し、さくらちゃんはオーストラリアの必殺タクティクスを破った。…私は、私は何もしていない。



努力すれば、いいんじゃないの?
努力すれば、認められるんじゃないの?
努力すれば、全部上手くいくんじゃないの?



「クソッ、」



ボールを勢いよく蹴るが、ゴールには入らない。それが苛立ちに拍車をかけた。
馬鹿みたい。私が、馬鹿みたいじゃないか。馬鹿だ、馬鹿だ。私は馬鹿だ。ああ、なんで私はこんなことやってるんだろうか。




「…荒れてるな」
「!!?」


突然背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、そこにいたのは剣城くんだった。
私が何も言えずにいると、剣城くんはゴールの傍に転がったサッカーボールを手に取り、そして私の方へ近づいてくる。



「少し、休んだらどうだ」
「……うん」


剣城くんに言われるがままに、私はその場に座り込み、そして膝を抱える。そんな私の頭の上に、剣城くんが白いタオルを置いた。私は何も言えなかった。同じく座り込んだ剣城くんが、ゆっくり口を開いた。



「今日のオーストリア戦、驚いたな」
「……そうだね、皆…すごかった」
「…お前も、何度もパスを繋いでいたじゃないか」
「…っ、同じフォワードの瞬木くんは、必殺技だって!私は、…私は、ゴール前に出ることすらできなかったっ!」
「ゴールを入れることだけが、フォワードの仕事じゃない」
「………、…ごめんね剣城くん、熱くなっちゃった」
「気にするな。たまにはそうやって吐き出した方がいい」


剣城くんと二人きりで話すのは、これがはじめてだった。…なのに、あんなに感情的に話しちゃうなんて…恥ずかしいことをしてしまった。
…私は、焦っている。みんなが、確実にイナズマジャパンの一員になりつつあるのが、分かるから。だから、焦っていたのだ。
自分は、なにも貢献できていない。居ても意味のない存在だと、これではまたあの時のように見捨てられる、そう思い焦っていた。


…はあ、結局…私は変わることができないのかな。




「ねぇ、剣城くん。人間って、変われると思う?」
「…どういう意味だ?」
「そのまんまの意味。なんとなく、聞きたくなっただけ。剣城くんの、率直な意見が聞きたいな」


私がそう聞くと、剣城くんは少しだけ考えるそぶりを見せたあと、ゆっくりと口を開いた。




「俺は、雷門に入ってから何度も見てきた。何か抱えた奴はちゃんと前に進み、確かに変わった」
「……」
「俺自身も、変われたんだ。でも、それは俺一人でどうにかなったことじゃない、天馬や神童さん…仲間が傍にいて、俺の肩を叩いてくれたから変われたんだと思っている」
「そっか…ははっ、私も、仲間ができたら…変われるのかな」
「…差し伸べられている手をしっかり掴むんだな」
「えっ?」
「お前の信じたいものを信じて進めばなんとかなる、ってことだ」
「……やっぱり私にはわかんないよ…」
「…信じたいものを、ゆっくり考えてみたらいい」





剣城くんと別れた後、しばらくグラウンドで呆けてから、その足で風呂場へと向かった。
風呂場の全身鏡で身体を見ると、転んで出来た痣やボールの痕などが痛々しいほどに肌の上に映る。




信じたいもの……か。







努力







努力なんだよね、努力。
私の信じたいものは、努力。あの時、あんなことになってしまったのは私の頑張りが、努力が足りなかったからだもん。だから、今回こそは…





「そっかぁ、…単純な話だったんだね」


私には、単に努力が足りなかっただけなんだ。出来ない奴は、他の人の数倍は努力しないといけないもんね。甘えてた。自分に甘えてたんだ。
私はすぐにシャワーを止めて、それから風呂場を出た。ユニフォームに袖を通し、向かうのはグラウンド。

練習しなきゃ、練習しなきゃ。






努力しなければ







20130703


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