次の日の夜、晩ご飯を食べ終わった潤は兄と共に居間でテレビを見ていた。
昼間の練習のことを話していると、携帯が震える。手に取ると立向居から電話がかかってきていた。

「もしもし?」
『あ、あの先輩!お、俺…俺…嬉しくて電話しちゃいました!』
「はい?」
『俺マジン・ザ・ハンドを習得して、円堂さんが喜んでくれて、それで雷門に入れてもらえて…』
「立向居、もう少しゆっくり話そうか」
『それで…雷門の監督が先輩に、言うって家に向かって、それで…』
「(聞いてないし)」

なにやら興奮している立向居の話をまとめてみようか。
立向居はマジン・ザ・ハンドを習得した。それを円堂が喜んだ。イコール円堂は脱屋上したわけだ。立向居は雷門に入れてもらったようだ。イコール彼は陽花戸を離れて旅をすることになる。オーケーオーケー。…そして最後の雷門の監督が先輩に言うって家に向かって…、どういうこと?
それを立向居に聞こうとすると、玄関のチャイムが鳴った。
兄が玄関に行き、そしてそこでようやく気づく。潤は兄を追いかけ、立向居からの電話は切らずに玄関へ向かった。

「吉良監督!」
「こんばんは、お邪魔させてもらうわ。本田さん」

家にやってきたのは雷門の監督の吉良瞳子だった。とりあえず兄の案内で居間へと移動する。お茶を煎れてきます、と兄はすぐに去っていき残されたのは潤と監督と…あ。

「吉良監督、少しすみません。…ごめん、立向居。監督がいらっしゃったの」
『あ、先輩!すみません、俺ちょっと興奮して喋りすぎました…』
「うんいいよ。それで…用事はそれだけかな?」
『あの…先輩』
「ん?」
『俺、円堂さんと一緒にサッカーがしたくて、雷門に参加したかったのも、あるんですけど…』
「……うん」
『先輩と、離れたくなくて…。だから、マジン・ザ・ハンドを習得して、雷門に入れてもらおうって決めて、それで…』
「それを今から雷門の吉良監督とお話するから」
『先輩は…雷門に入りますか?』
「……とりあえず、吉良監督にお話を聞くから、切るね?」

潤は立向居におやすみと言う。彼はまだ何か言いたそうにしていたが無視して電話を切った。明日謝らないとな…なんて思いながら、潤は瞳子に向き直り頭を下げた。

「すみません、バタバタしてしまって」
「構わないわ。…それより、もう雷門に入る気なのに、どうして立向居君には言わなかったの?」
「何で入る気だって分かるんですか?」
「…初めて会った時、貴女は「今は」と言ったわね」
「そういえば…そうですね」
「私が今日、再び誘いに来た…。その理由は貴女にも分かると思うのだけれど」
「そうですね」

潤が断った理由は、よく分からないけどチームがバラバラしているように見えたからだ。そんな状態のチームに入るのは悪いがごめんだったし、楽しくサッカーができなくなると考えたから。
だけど鬼道に色々話を聞いたりして、分かったこともあった。自分が入っても何も出来ないけど、それでも自分の力があのチームにとって必要なら、自分は彼らに協力したいとも思った。それに立向居もこんな自分のために頑張ってくれたんだからね。…そのことを全て知って、再び誘いに来たというのなら…。この監督は本当によく見ているな。…なんて感心した。よし、じゃあ決まりだね。

「私なんかでよければ、使ってください」
「…ありがとう。ということでよろしいですか?」

瞳子が襖をチラっと見ると、兄が苦笑しながら出てきた。持っていたお盆を机に置き、吉良監督の前にお茶を差し出す。兄には、以前瞳子に誘われたことを既に話してあった。

「僕は潤の好きなようにさせます」
「そうですか、ありがとうございます」
「…兄さん、すみません。少しの間家を空けます」
「大丈夫ですよ。頑張ってくださいね、陽花戸のエースストライカーさん」
「あはは、うん。…ということで吉良監督、お世話になります」
「感謝するわ。本田さんも、ありがとうございます」
「いいえ」
「それでは失礼するわ」

瞳子は立ち上がるともう一度礼をして玄関まで向かっていった。潤と兄はそれに続いて玄関に向かう。靴を履き終えると、吉良監督はもう一度こちらへ向き直る。

「本田さん、明日には出発するわ。長い旅になるから充分に準備をしてきなさい」
「分かりました」

潤がニコリと笑うと、瞳子も少しだけ笑った。だがすぐにキリっとした表情になると、兄に向かってもう一度礼をする。

「それでは、失礼します」
「妹をよろしくお願いします」
「はい。…では本田さん、また明日」
「おやすみなさい」

ガラリと戸を閉めて、瞳子は陽花戸中へ戻っていった。
ふぅ、と潤がため息をつくと兄は笑って潤の頭を撫でる。それが気持ちよくて、潤は静かに笑った。



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