「本田、グラウンドの件すまなかった」
「うーん。まぁキャプテンが決めたことだし、それに練習は公園でもできるし…私は別にいいよ」
「ありがとう。それと…瞳子監督に聞いたのだが、お前…雷門に入るのを断ったらしいな。…理由を聞かせてもらってもいいか?」
「なんというかさ、チームがバラバラしてるなーって思ったのが理由かな」
「…そうか、あながち間違ってはいないが」
「入るのは別に嫌じゃないんだ。だけど、…。ねぇ、何かあったのかな?吹雪くんだっけ、あんな凄いシュートに突っ込んでいくのは…とてもじゃないけど普通じゃないよ」
「吹雪の問題は…特殊でな。そう簡単には話せないんだ」
「そっか」
「聞かないのか?」
「言えないことなんでしょ?」
「…ふっ」

鬼道の突然の笑いに眉を顰める潤。何か面白いことしたっけ、なんて考えていると鬼道はすまない、と笑いをこらえながら言った。

「?なんで笑ってるの」
「追求してこないんだな、お前は」
「話せないことを無理に聞いても仕方ないじゃん」
「…雷門にはお節介が多くてな、お前のようなタイプは珍しくて…つい、な」
「みんな優しいんだね」
「あぁ。だが…」

鬼道は上を見上げた。正確に言えば、屋上を見ていた。潤は彼と同じように屋上を見上げるが何も見えなかった。


「何見てるの?」
「……一昨日、仲間の一人が離脱したんだ」
「…そう」
「そいつはうちのキャプテン…円堂と仲が良くてな。それに、吹雪がああなった後だ。…それがひどくこたえてな、円堂にも、もちろんチームメイトにもだ」
「そっか。もしかして屋上にずっとキャプテンいるの?」
「あぁ…そうなんだ。それと、チームの監督への不信感…といったところか。お前が言ったバラバラしている原因は」

監督への不信感か。それでチーム全体がギスギス、それに重なりキャプテンの落ち込み、仲間の離脱…か。大変だな、雷門。

「監督は言葉が少なくて、それでいつも誤解を招くんだ」
「なるほどね。…それにしても鬼道はすごいね」
「…何故だ?」
「キャプテンが不在、チームメイトの離脱、監督への不信感。普通は落ち込んじゃって練習もままならないよ。だけど、鬼道はこうして他人にそのことを話せるくらい落ち着いてる。それはキャプテンを信頼してる証、監督を信じてるって証だと思うんだ」

ニヤリと笑いながら目を細める潤に、鬼道は驚く。
そして鬼道はすぐに潤と同じようにニヤリと笑った。

「…あぁ、俺は円堂を信じている。もちろん、監督もだ」
「そっか。なら大丈夫だよ。色々教えてくれてありがとね」
「構わない。こちらこそ色々話してしまってすまなかったな」
「ん、いーよいーよ。じゃあそろそろ練習行くね」
「あぁ、また会おう。今度はチームメイトとして」
「ははっ、頑張ってね。鬼道」

鬼道有人は驚いた。
彼女に…本田潤に話しかける前より、幾分か心が軽くなったからだ。人に話すと幾分か楽になる、とは本当なのだな。それにこいつはずいぶんとあっさりしている。それもあってとても話しやすかった。
鬼道は歩き出す。チームメイトの下へ。上にいる円堂を見上げるのは、もう止めよう。

きっと円堂は立ち上がる、それを俺は信じる。信じるんだ。




20130527 修正
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -