潤はそっと目を閉じた。雷門での仲間たちが声をかけてくれる。立向居が泣きそうな声でおかえりと言ってくれる。…戻ってきた。すべてを思い出した。
本田潤であり南雲潤。自分のことも、お日さま園のことも、陽花戸のことも、雷門のこともすべて思い出した。


潤が目を開くと、そこには雷門のみんながいた。彼らは、確かに自分の仲間だ。…心のどこかで、彼らを陽花戸のみんなと比べてしまっていた自分がいたことを潤は恥じた。彼らは仲間なのだ。何度も手を差し伸べてくれる素晴らしい仲間なのだ。…潤は何も言わずに首から下がっていた、もう機能していないエイリア石を外し、そして地面に棄てた。



そして潤は振り返る。そこには、実の兄と姉弟のように育ってきた家族がいた。二人は何も言わず、絶望した顔で潤と雷門のみんなをただただ見つめていた。潤は、彼らとの距離を詰めた。


「私は、父さんのやり方には賛同できないよ。…私は2人を、…ううん。家族を止めるために貴方たちと戦う」
「潤…お前、なんで、…なんで記憶が…、」
「…晴矢、止めようよ。ね?こんなこと、やめよう?風介も、ね?」
「潤、やめろ。やめてくれ、俺は…お前が、…やめろ、戻ってこいよ…」


バーンがふらふらと潤に手を伸ばすが、潤が彼の手を掴むことはなかった。苦しそうに眉を寄せ、それでも潤の両目はしっかりとバーンを見据えていた。ふらふらと宙をさまよったバーンの手は、力なく下へ落ちた。


「俺の、俺の前からいなくならないでくれよ…言ったじゃないか、いなくならないって…嘘だったのかよ…」
「晴矢、晴…」


潤がバーンに手を伸ばした瞬間、二人の横を冷たい何かが通り過ぎていった。それはひどく無表情なガゼルだった。
彼は一目散に立向居のもとまで向かい、物凄い形相で立向居を睨みつける。


「お前のせいで潤が、返せ、お前がいなくなれば、お前さえいなくなればぁ!!」
「!おい、やめろ!」
「立向居!や、やめて風介」


ガゼルがその両手を立向居の首に伸ばした。すぐさま隣にいた綱海が立向居の腕を引き、ガゼルから逃がす。潤はその隙にガゼルと立向居の間に入った。


「な…何故なんだ、潤。私たちは家族じゃないか、こんなこと…おかしいだろう!!」
「ごめん。それでも、私は雷門イレブンの一員なんだ。今はこちら側で、君たちを止めなきゃいけないんだ」
「ああ、分かった。そいつらのせいで君はおかしくなったんだ、ねぇ?戻ろう、私たちと一緒に戻ろう?治してあげるよ、ねえ潤」
「風す…」



その瞬間、二人の間に天から勢いよくボールが落ちてきた。舞い上がる風に目を細めながら、潤は空を見上げた。そこにはやはり、知った顔があった。



「みんな楽しそうだね」
「ヒロト!」
「…ヒロト」
「やあ、円堂くん。…それに、潤」
「っ…」


グランの格好をしたヒロトと目があい、一瞬だけ身動きが取れなくなった。笑っているのに、笑っていない。ヒロトは潤を見た後、視線を移す。もう彼は笑ってはいなかった。バーンはヒロトに視線を向けることなく、俯く。ガゼルはヒロトを見据えると眉を寄せた。


「何勝手なことしてる」
「我々は雷門を潰し誰がジェネシスにふさわしいのかをあのお方に証明するために戦っていたのだ。だが今はそれどころではない、早急に潤を連れ帰らなければならなくなってね。やはりこの環境は潤に悪影響だ。はやく、はやく帰らないと…」
「……潤、君はそちら側を取り戻して、そして選んだんだね」
「…私は、雷門だから」
「そう。…残念だよ。まあ今回は、彼らの処分があるから…またの機会に」
「し、処分って、待ってヒロト!」
「俺はグランだよ。…じゃあね、円堂くんも潤も、そして…」


立向居は動けなくなった。今まで生きてきて、こんな視線を向けられたことなんてなかった。「う、あ…」ヒロトに睨みつけられた立向居は、情けない声を漏らした。ヒロトはそんな立向居には目もくれず、ボールを操作する。すると、一瞬にして彼とカオスのメンバーが消えてしまった。潤は声が出なかった。

結局何も話すこともできないまま、「終わってしまった」カオスのメンバーが、兄が、風介がどうなったのか、分からない。ただ、ジェミニやイプシロンのメンバーは消されていったと記憶されている。俯く兄と目に光が無くなってしまった幼馴染の顔が浮かんだ。…私は、どうすればよかったのだろうか。段々と視界が薄れてゆく。最後に見たのはひどく晴れ渡った空の青だった。



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